研究者でありメディア・アーティストでもあり、「現代の魔法使い」とも呼ばれる筆者が、人間とコンピュータの関係性や、リアルとバーチャルの境目がなくなる「魔法の時代」を生き抜くための人生指南術を説く一冊。技術社会論であり、自己啓発書でもある。
筆者の言う「映像の世紀」の価値観の中で生きてきた私には、目から鱗が落ちるような一冊だった。時代や技術に対する向き合い方や考え方が、異星人のごとく根っから異なっている。コンピュータは人間が使う道具では無くて、人間がコンピュータの下請けとして生きることが当たり前のように語られる。しかもそれは技術トピア的な未来論を語っているわけではなく、自然でロジカルな現実論だ。
そのうえで人間が、「魔法」(複数の意味でつかわれているがここではコンピュータ)に使われるのではなく、魔法をかける側にたつためにはどうしたらよいのかを説く。キーワードは、「モチベーション」「専門性」「思考体力」。こうしたものを身に着けた人間が、「クリエイティブ・クラス」として「魔法の時代」の絶滅品種である「ホワイトカラー」にとって代わるのである。
筆者が言う世界が、2-3年で来るものなのか、5年先なのか、はたまた10年以上かかるのか、時間軸はわからない。これは違うのではと思う箇所もいくつかある。しかし、この世界の到来が時間の問題であることは間違いなさそうだ。若い人とその若い人を育てる親世代に向けて、書かれている本だが、万人にお勧めできる。特に、現在、ホワイトカラーと呼ばれる職に就いている人に。
【目次】
プロローグ:「魔法をかけられている人」になるか、「魔法をかける人」になるか
コンピュータと出会って二〇年、僕は「現代の魔法使い」になった/人間の生き方が根本的に変わる/人工知能が人間を越えるとき/親は子供に見当違いの教育を与えている/「人間だけにできること」は何か/出来の悪いウィキペディアになるな/
コンピュータの弱点
第一章 君は「絶滅危惧種」でいいのか
コンピュータは「総当たり戦」が得意/人件費を激減させる「クラウドソーシング」とは/オリジナル以外の「もどき」はコンピュータに負ける/人間がコンピュータの「下請け」になる/人間はコンピュータの「インターフェイス」になる/タクシードライバーの時給を三倍にした「Uber」/共産主義が失敗したのはコンピュータがなかったから?/もはやホワイトカラーは自立的でもかっこよくもない/コンピュータは資本主義をどう変えたのか/リソースは人間の脳の中にしかない/ほか
第二章 未来を戦うための「武器」
近代の「脱魔術化」とは何か/二一世紀は「再魔術化」の時代/コピーのできない「暗黙知」を自分のなかに貯めていく/「オンリーワン」で「ナンバーワン」になろう/暗黙知は拡大再生産される/「五つの問い」を自らに投げかけよう/日本の一億人ではなく世界の七〇億人を相手にしよう/解決したい「小さな問題」を探そう/みんなが同じ価値を共有しにくい時代に何がウケるか/コンピュータで何が解決できるかを考えよう/「デジタル・ネイティヴ」ではなく「デジタル・ネイチャー」を生きる/コンピュータに支配されない「思考体力」を備えよう/あなたの「市場価値」が最大化するのはいつか/ほか
第三章 「天才」ではない、「変態」だ
「変態」の将来は明るい/大人に否定されなかった好奇心/人生を変えた「鉛筆転がし」/「イメージとマテリアルの中間」に何があるのか/駅の改札をなくす技術/世の中の「継ぎ目」をなくしたい/「WOW!」を生み出すにはどうすればよいか
エピローグ 「魔法の世紀」のパラダイム
自分の価値を自己肯定する/人間とコンピュータが親和した先に生まれる文化/インターネットと人間の区別がつかない時代
【個人的メモ】
映像の世紀から魔法の世紀へ
「映像メディア」の中での表現
リアルとバーチャルは区別される
1対多(N)
↓
映像的な表現が「現実の物理空間」で可能に=「魔法」
リアルとバーチャルの境目がなくなる
N対N
コンピュータはブラックボックス化、API化で中身がわからない、仕組みが分からなくなってしまった
→便利になった、楽になったを超えるインパクト。人間の生き方と考え方に大きな変化を迫る
コンピュータは第二の身体であり、脳であり、そして知的処理を行うもの、たんぱく質の遺伝子を持たない集合型の隣人
人間が持っていてコンピュータが持っていないもの
→ガッツ、気合、根性では無い
→モチベーション「これがやりたい」と言う動機
魔法を使う人になるかつかわれる人になるか
第1章
人間の仕事は人工知能のインターフェイス(AI・コンピュータと人間のインターフェイス?
その人にしかない暗黙知や専門知識に価値がある
ホワイトカラーからクリエイティブクラス(創造的専門性を持った知的労働者)
与えられた問題を解決するのがホワイトカラー
誰も気が付かなかった問題を発見し、解決するのがクリエイティブクラス
メカニカルアーツとリバラルアーツ
→コンピュータがメカニカルアーツの世界を大きく拡大。コンピュータの影響が大きくなるほど抽象思考のリベラるあーつは力を持ちにくい。メカニカルアーツとつながるリベラルアーツは価値を持つが、メカニカルアーツなしのリベラルアーツは経済市場においてほとんど意味がなくなる(P86)
第2章
近代=脱魔術化、21世紀=再魔術化の時代
テーマの価値を考える5つの質問
・それによって誰が幸せになるのか
・なぜいま、それが問題なのか。なぜ 先人たちはそれができなかったのか
・過去の何を受け継いでそのアイディアに到達したのか
・どこに行けばそれができるのか
・実現のためのスキルはほかの人が到達しにくいものか
何ができるか、自分が解決できる小さな問題を探せ
人間とコンピュータはどちらがミトコンドリアなのか?
思考体力をつけるには言語化すること
語学的な正しさよりもロジック
専門性を高めれば魔法を使う側になれる