その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

恩田陸 『蜜蜂と遠雷(上)・(下)』 (幻冬舎文庫、 2019)

2019-09-14 07:30:00 | 

 
 久しぶりの小説。恩田陸さんの小説は家族が読んだものが何冊か家にあるのだが、私は初体験。

 世界的ピアニストへの登竜門となる国際ピアノコンクールを舞台に、コンテスタント、審査員、関係者らの音楽への関わり方や人生が描かれる。読む人によって違った角度で面白さが味わえそうな、読み応えのある物語だ(単行本発刊は2016年)。

 まずは、登場人物のキャラが際立っていて、誰もが魅力的。斜に構えると「小説だからねえ〜」とも言いたくなるところもあるが、才能に恵まれた個性的なコンテスタント達が、音楽を通じて真摯に自分に向き合い、コンテストを通じて成長していく。ストーリーの展開も気になるが、それよりも純粋に読んでいて、個の成長が気持ちが良く、爽やかだ。
 音楽の聴き方の勉強にもなる。普段の私の聴き方に「ぼーっと、聴いてんじゃないよ〜」と怒られそうな気になるぐらい、登場人物の音楽の聴き方は多様で深い。知っている曲も知らない音楽もあったが、知っている音楽はこんな風に聴くのか〜と感心し、知らない音楽は脳内で演奏される。同じ音楽を聴いていても、自分にはとても感じられなかったところを、本書を通じて新しく聴くことができたのは新鮮な経験だった。
 そして、聴いた音楽をこう表現するのかと、書き方にも脱帽だ。音楽をどう書き下すのか、いつもいろんな方の演奏会の感想・批評ブログを読んだりし、自分自身も感想書いたりするが、本書で描かれる音楽の世界は多元的で、物語があって、色彩豊かだ。仮に同じように聴いて感じても、絶対こうは表現できない(まあ当たり前だが)。周波数で構成された物理的音楽を鑑賞するのとは異なった、文字を通じた想像の音楽にも入り込む、そんな4次元的な音楽鑑賞の感覚を味わえた。

 近々、本作を原作とする映画が公開される。原作のイメージが壊れるか、それとも、さらに別の世界を見せてくれるのか、原作を読んだ後の映画は常に自分の読書の世界が上書きされる怖さが伴う。さあ、どうしたものか。

コメント
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