全くもって自分が不真面目なだけだが、N響の定演の演目はいつも1週間前になってやっと確認する。(天つばだが、この受け身な定期会員がクラシック音楽の演奏会をエキサイティングでないものとする一つの大きな原因だと思ってる)それで先週末に初めて気が付いた。ヴァイグレ、読響のマーラー5番を聴いてみたいと思って買った演奏会は、何とパーヴォ、N響のマーラー5番の翌日だった。演奏会の連戦は苦手なうえに、同じ曲目を聴くのは最初に聴いたものが上書きされるので、分かっていれば絶対に避けたんだけど・・・
ただこの日は、前半にベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番があるので、そちらも楽しみだった。私だって名前ぐらいは知っているブッフビンダーさんはもう72歳という。確かに舞台に登場したブッフビンダーさんは、2歳年上のピアニストのマリア・ジョアン・ピレシュと比べると、猫背でゆっくりと下した歩き方が、こちらのほうがお年を召している感じがする。大丈夫かなとちょっと心配になるぐらい。しかし一旦演奏が始まると、それは全くの余計な心配だった。ピアノの音は実に滑らかで優しい。あまりにも心地よいので、落ちそうになること数回、やばいやばいと姿勢を取り直すと、右隣のおじさん、左隣のご婦人は完全に落ちていた。オケとも一体となって紡がれる音は至福の時間であった。
後半はマーラー交響曲第5番。前々日の同じプログラムでの演奏が、ツイッター上で滅多に見ない程、酷評が多数アップされていたので、怖いもの見たさ的な興味も曲が始まる前はあったのだが、終わってみれば逆に「う〜ん2日前はどんな演奏だったのか」と思わせるほどの力演だった。
加えて前日に、パーヴォ、N響の演奏を聞いたばかりだがら、違いも分かって面白い。パーヴォがかなり「パーヴォ流に」音楽を消化し、エレガントとでも言えるようなマーラーだったのに対し、ヴァイグレはど真ん中のストレートを思いっきり投げ込んだかのような、飾り気少ない真っ直ぐな印象。音質は読響はN響より重厚感ある骨太で、オケの音の大きさも印象的だった(もっともこれはホールの違いが大きいかも)。ソロパーツが目立つトランペット、ホルンの鳴り方は当然ながら違う。第4楽章の美しさは双璧をなすもので、双方の弦楽器のアンサンブルはお見事でこの日も涙ものだった。前々日のこのプログラムでは終演後の拍手も「冷淡」だったとの何方かのブログで読んだのだが、この日は割れんばかりの大拍手だった。私的には個人的にはN響の演奏の方が好みだったが、力の籠った熱演に力いっぱい拍手を寄せた。
帰りの列車でラグビーワールドカップの吊広告を見て、日本で最高レベルの選手集団であるラグビー日本代表でもロシア戦の前半は考えられないようなミスを連発したけど、後半しっかり修正してきたことが頭に浮かんだ。今日の演奏もきっと「修正」のたまものなのだろう。やっぱり、スポーツもオケも生身の人間が織りなすドラマなのだ。だから面白い。
第220回日曜マチネーシリーズ
2019 9.22〈日〉 14:00 東京芸術劇場
指揮=セバスティアン・ヴァイグレ
ピアノ=ルドルフ・ブッフビンダー
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58
マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調
Sunday Matinée Series No. 220
Sunday, 22 September 2019, 14:00 Tokyo Metropolitan Theatre
Conductor = SEBASTIAN WEIGLE
Piano = RUDOLF BUCHBINDER
BEETHOVEN: Piano Concerto No. 4 in G major, op.58
MAHLER: Symphony No. 5 in C sharp minor