その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

茂木大輔『オーケストラは素敵だ オーボエふきの修行帖』(中公文庫、2006)

2020-03-04 07:30:00 | 

元N響、オーボエ首席奏者茂木さんによる腹絶倒のエッセイ。ブックオフの100円コーナーで見つけた。1993年、1995年に発刊された本を再構成したものなので、書かれた時期は随分前だ。

茂木さんの若き日のドイツ留学時代を中心に描かれているが、筆者の大胆不敵な行動とユーモア一杯の記述が楽しく、一気に読んでしまう。オーディションの様子、指揮者とのリハーサル、同じプログラム・同じ指揮者でも毎回異なる音楽となることなど、普段客席からは伺い知れない裏舞台を覗き見るのは、今後表舞台を見るうえでも参考になる。

笑い処満載だが、個人的に一番受けたのは「演奏会の放送を裏チャンネルでプロ野球の実況中継的にやってみる」こと。以下一部を引用すると、

「さあまもまくホルン・ソロ。松崎緊張した面持ち微動もせず指揮者を見た。吹いた。
 ストライク!
 決まった、決まりました。見事に決まっています。
 次はオーボエ。指揮の合図を見て、振りかぶって第一小節を吹いた。低い!
 茂木表情に焦り。リードが悪いのか。
 低い!これまた低い。ワンバウンドの音。カウントが一杯になりました。
 N響ピンチ!
 おっと、
指揮の外山、タイム、タイムを要求しました」
 「ここは茂木を変えますね」
 「オーボエ北島!」 (p148)

 思いっきり噴いた。ただ確かに、聞き方とか、曲の聴きどころが同時進行で分かってめちゃ面白いと思う。是非やってみて欲しいが、まあ当時から25年たってもそうしたものは聞かないのであまり受けないのかな。
 それにしても、流石にN響の首席奏者になるような人は、努力もするが自信も凄い。羨ましい。楽譜すら読めない自分には全くの別次元の世界の話ではあるものの、別次元の話しであるがゆえに、読んでよかった1冊だった。

(目次)

オーディション物語
 オーディション/五次審査への長い時間
 楽員募集/「ダス・オルヒェスター」の求人広告
 書類審査/「飛び込み」という過激な方法
 履歴書/過剰でアイマイなアッピール
 初仕事/ぐしゃ! 花のように開いたリード
 武者修行/つかの間の夢
 転機(1)死にものぐるいの地下室修行
 転機(2)モーツァルト・シャワー
 転機(3)時の人、有頂天から一転して

オーケストラに入ったら
 首席奏者/「主席」は中国の指導者
 楽譜/「書き込み」との出会い
 リハーサル/その時、指揮者はなにをするか
 コンサート・ホール/通勤片道十八時間三〇分
 楽屋/「さようなら、クリーンさん」
 ゲネ・プロ/「ノリウチ」ってなんだ 104
 名曲のアダ名/「だふくろ」ってなんだこりゃ!
 燕尾服/脱走不能、本番への覚悟
 本番/ステージへは「器量の順」「年の順」?
 序曲/年末「第九」の前座
 協奏曲/オケ・マンの「凄い」特典
 テレビ中継/カメラの「赤い電気」の恐怖
 ラジオ中継/おしゃべり奏者は早口支離滅裂
 休憩時間/休めない休憩
 交響曲/六十四のシンフォニー
 フィナーレ/「もうすぐ終わるよ、ほらね!」
 ブラボー/ああ! 勘違いのカーネギー・ホール
 握手/最後の演奏会の写真
 花束/一輪の白いバラの贅沢

オーボエ吹きのドイツ修行
 宝の山......バッハのカンタータを知る
 基礎訓練の必要あり、見所はあるが三流だ
 バッハ・アカデミーで堂々??の来日
 バッハ「ロ短調ミサ」に学んだこと

文庫版あとがき

 

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