その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

映画 「私はダニエル・ブレイク」(監督 ケン・ローチ、2017年)

2020-03-24 07:30:00 | 映画

イギリスの心臓疾患のため仕事の大工ができなくなり失業給付を求める60歳代の男性と公共住宅に引っ越してきたシングルマザーと二人の子供の家族との交流を通じて、イギリスの普通の市民の貧困を描いたドラマ。社会派で有名なケン・ローチ監督の作品で、2016年に第69回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドール、2017年に英国アカデミー賞で英国作品賞 (2017)を受賞している。

 ワーキングクラスとして普通に仕事をしてきても、健康を害して仕事を続けられなくなった時には、日々の生活が立ち行かなくなる。不幸な結婚の解消と同時に、子どもを抱えて路頭に迷う。怠けていたわけでもなければ、贅沢をしたわけでもない。たまたま巡ってきた運命や環境で、人としての生きる権利や尊厳までが侵される。重くのしかかる現代社会の矛盾が表現されている。主人公のダニエル・ブレイクを演じたデイヴ・ジョーンズの深みのある演技、シングル・マザーのケイティ役、ヘイリー・スクワイアーズの自然体な演技が、リアリティを高めている。

 この映画を観て「貧困は自己責任」と言い切れる人がいるのだろうか。もちろん、国、市町村の福祉にただ乗り、悪乗りしている人を私も見てきているし、世の中には働けるのに働いてない人も存在するだろう。だが、自己責任で片付けられない貧困は確実に存在し、そうした人には一定の支援が必要なはずだ。

 私は未見だが、日本の「万引き家族」、韓国の「パラサイト」など貧困を描いた映画が各国で製作され、評価されているのは、先進国と言われる国においても貧困が課題であることを示しているのだろう。

(最近は日本も同じだが・・・)イギリスのつながらないコールセンターやお役所仕事はロンドンで十分に経験したので、肌感覚としても良く分かる。イングランドの北東部の薄暗い街並み、寒い気候が、厳しい環境を際立たせる。掛け値なしにいい映画だが、明るい展望が見える映画ではないので、観るタイミングは選んだ方が良いと思う。

余談だが、原題は"I, Daniel Blake"。観て頂ければわかるが、邦題は訳としては間違ってないが、ちょっと映画や原題のイメージとは違う。

 

監督:ケン・ローチ
製作:レベッカ・オブライエン
製作総指揮:パスカル・コーシュトゥー グレゴワール・ソルラ バンサン・マラバル
脚本:ポール・ラバーティ
撮影:ロビー・ライアン
美術:ファーガス・クレッグ リンダ・ウィルソン
衣装:ジョアンヌ・スレイター
編集:ジョナサン・モリス
音楽:ジョージ・フェントン

ダニエル・ブレイク:デイブ・ジョーンズ
ケイティ:ヘイリー・スクワイアーズ
ディラン:ディラン・フィリップ・マキアナン
デイジー:ブリアナ・シャン
アン:ケイト・ラッター
シェイラ:シャロン・パーシー
チャイナ:ケマ・シカウズウェ

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