家人の書棚にあって手に取ってみた。飛鳥時代の歌人、額田王の半生を描いた物語。淡々とした静かな文体で、神に仕える巫女としての主人公と彼女をめぐる時の人、中大兄皇子と大海人皇子らとの恋愛が描かれる。味わい深い小説だ。
幾通りかの読み方を楽しめる。額田王の巫女・女性・母・歌人としての伝記として。2人の皇子の三角関係を描いた恋愛小説として。大化の改新後の遷都・蝦夷征討・白村江の戦い・壬申の乱といった国として形を整え始めたヤマトの成立過程を綴った歴史小説として。
あくまでも小説なのだが、教科書や歴史書ではわからない時代の空気感を感じ取れるのも嬉しい。この小説を通じて、自分なりに、歴史的転換点において彼らがどういう考え・思いだったのかを想像を駆け巡らせるのも楽しい。
出会いに感謝する一冊だった。