今年度から高校教育で、近現代の世界・日本の歴史を統合的に学ぶ「歴史総合」が必修化されたらしい。本書は、この機会を捉え「近現代史の名著を題材に、歴史研究の最前線や歴史像の形成過程、概念に基づく比較、問いや対話による歴史総合の実践」(出版社紹介)が示される。「これまでの歴史学が、どのような問いをもって事実や歴史解釈を導き出し、その「問い」の変化によって、焦点となる事実と歴史解釈、歴史叙述の方法をどのように刷新してきたかが鳥瞰的に考察される」(viiページ)。取り上げられるテーマは「近代」「帝国主義」「2つの世界大戦」「グローバル化」ら。近現代史の本流の出来事・概念である。
知的刺激に満ちた本であり、読み応え十分だ。学生時代や社会人になってから読んだ本がテキストとして多く取り上げられており、個人的に懐かしい思いもあった。363ページのボリュームも新書として重厚で、編者や出版社の熱意を感じる。そして、実績ある歴史学者による対話形式で進められる議論は、論点が明確に提示されるので、迷うこともない。歴史の見方の複雑さ、むずかしさ、楽しさを示してくれている。
ただ、読者のメインターゲットが誰なのかがよくわからない。基礎的な歴史の知識や概念の理解があることが前提条件になっている本なので、標準的な高校生が教科書のサブテキストとして本書を読み込めるとは到底思えない。大人でも歴史だけでなく、歴史へのアプローチ手法に興味がないと、とても読み切れないと思う。
非常によくまとまっていて、勉強になる本であるが故に、歴史を学ぶことの意義を改めて考えさせられた。今のロシア・ウクライナ戦争、中国の台頭、グローバル資本主義の行き詰まり、こう言った事象に対しての解決に歴史学の知見がどう活かされるのか?までは見えないからである。そういった点にまで踏み込めれば、今の高校生にも多少なり関心が出る気がするが、そこまでの記載はない(というか、そもそもイシューの設定が違うので、無いものねだり)。私を含めて、歴史好きの人は、単なる自己満足に終わらないように注意しなくてはいけない。
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目次
刊行にあたって(小川幸司、成田龍一)
はじめに(小川幸司)
Ⅰ 近代化の歴史像
第一章 近世から近代への移行
1 近代世界の捉え方
2 中国史(岸本美緒)から見ると
3 岸本美緒との対話
第二章 近代の構造・近代の展開
1 国民国家の捉え方
2 イギリス史(長谷川貴彦)から見ると
3 長谷川貴彦との対話
Ⅱ 国際秩序の変化と大衆化の歴史像
第三章 帝国主義の展開
1 ナショナリズムの捉え方
2 アメリカ史(貴堂嘉之)から見ると
3 貴堂嘉之との対話
第四章 二〇世紀と二つの世界大戦
1 総力戦の捉え方
2 アフリカ史(永原陽子)から見ると
3 永原陽子との対話
Ⅲ グローバル化の歴史像
第五章 現代世界と私たち
1 グローバル化の捉え方
2 中東史(臼杵陽)から見ると
3 臼杵陽との対話
あとがき(成田龍一)