その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

今見る意義ある公演‗モデスト・ムソルグスキー 〈ボリス・ゴドゥノフ〉(指揮:大野和士,演出:マリウシュ・トレリンスキ) @新国立オペラ

2022-11-24 07:37:57 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

一度は見たいと願っていたムソルグスキーのオペラ〈ボリス・ゴドゥノフ〉をやっと見ることができた。

ロシアーウクライナ戦争の最中という難しい時期における、ロシアの政治そのものをテーマにもするロシア・オペラの大作の上演には、観劇前から大野・新国立劇場の並々ならなぬ決意を感じていたが、実際の公演は、まさに関係者の熱意が籠った上演であった。

ロシア皇帝のボリス・ゴドゥノフの心の葛藤を描いた本作は、想像以上に重厚、陰鬱だった。題名役のギド・イェンティンスは歌声も素晴らしいし、苦悩する主人公の表現が抜群だ。また 僧ピーメンのゴデルジ・ジャネリーゼが発する低音の迫力は劇場全体を暗黒な雰囲気に包み込むような迫力。日本人歌手陣も健闘で、グリゴリー役の工藤和真は後半やや疲れが出た印象があったが、その歌声は美しくドラマのキーパーソンの一人として重要な役割を果たした。

物語の陰の主役とも言われる<民衆>たちの合唱は、相変わらず新国合唱団が素晴らしいハーモニーを聞かせてくれた。

また、出色だったのはピットに入った都響の演奏。ダイナミックにうねる音楽を柔剛を巧みに演奏し、豪快かつデリケート、しかもシャープな演奏に感嘆した。こういう言い方が適切かどうかはあるが、表現の幅の広さにおいて、いつもの新国のピットとは違っていた。

物議を呼ぶのは演出だろう。現代に読み替えた舞台は、近未来世界のよう。舞台上に透視性のあるキューブを使ってその中で同一時間の異空間を進行させたりする手法は効果的だと思った。映像も駆使されていたが、私が座った4階席からはステージ正面奥のスクリーンは殆ど視界が切れて見えなかったので残念だった。現代読み替え演出そのものは、違和感はなく、むしろ当時と現代の連続性にも気づくことにもなり、良く出来ていると思った。一方で、グレゴリーを知的・肉体的な障がい者として描く演出は、正直見ていて良い気持ちがしない。

オペラで描かれる国家、権力者、民衆、愛、野望。現代世界で進行中の出来事が否が応でも呼応する。現代との連続性は驚くばかりだ。この時期にこのオペラを鑑賞する機会を持ったことは、自分史の中にしっかりと刻まれた気がした。

(2022年11月17日観劇)

2022/2023シーズン
新国立劇場 開場25周年記念公演
モデスト・ムソルグスキー
ボリス・ゴドゥノフ<新制作>
Boris Godunov / Modest Mussorgsky
プロローグ付き全4幕〈ロシア語上演/日本語及び英語字幕付〉

公演期間:2022年11月15日[火]~11月26日[土]
予定上演時間:約3時間25分(プロローグ・第1幕70分 休憩25分 第2・3幕40分 休憩25分 第4幕45分)

スタッフ

【指 揮】大野和士
【演 出】マリウシュ・トレリンスキ
【美 術】ボリス・クドルチカ
【衣 裳】ヴォイチェフ・ジエジッツ
【照 明】マルク・ハインツ
【映 像】バルテック・マシス
【ドラマトゥルク】マルチン・チェコ
【振 付】マチコ・プルサク
【ヘアメイクデザイン】ヴァルデマル・ポクロムスキ
【舞台監督】髙橋尚史

キャスト

【ボリス・ゴドゥノフ】ギド・イェンティンス
【フョードル】小泉詠子
【クセニア】九嶋香奈枝
【乳母】金子美香
【ヴァシリー・シュイスキー公】アーノルド・ベズイエン
【アンドレイ・シチェルカーロフ】秋谷直之
【ピーメン】ゴデルジ・ジャネリーゼ
【グリゴリー・オトレピエフ(偽ドミトリー)】工藤和真
【ヴァルラーム】河野鉄平
【ミサイール】青地英幸
【女主人】清水華澄
【聖愚者の声】清水徹太郎
【ニキーティチ/役人】駒田敏章
【ミチューハ】大塚博章
【侍従】濱松孝行

※本プロダクションでは、聖愚者は歌唱のみの出演となります。

【合唱指揮】冨平恭平
【合 唱】新国立劇場合唱団
【児童合唱】TOKYO FM 少年合唱団
【管弦楽】東京都交響楽団

共同制作:ポーランド国立歌劇場

Co-production with Polish National Opera
2022/2023 SEASON
25th Anniversary Production
The 77th National Arts Festival by Agency for Cultural Affairs presents

New Production

Music by Modest MUSSORGSKY
Opera in 4 Acts with a Prologue
Sung in Russian with English and Japanese surtitles

OPERA PALACE

15 Nov - 26 Nov, 2022 ( 5 Performances )

CREATIVE TEAM

Conductor: ONO Kazushi
Production: Mariusz TRELIŃSKI
Set Design: Boris KUDLIČKA
Costume Design: Wojciech DZIEDZIC
Lighting Design: Marc HEINZ
Video Design: Bartek MACIAS
Dramaturg: Marcin CECKO
Choreographer: Maćko PRUSAK
Hair and Make-up Design: Waldemar POKROMSKI

CAST

Boris Godunov: Guido JENTJENS
Fyodor (Feodor): KOIZUMI Eiko
Kseniya (Xenia): KUSHIMA Kanae
Kseniya’s nurse: KANEKO Mika
Prince Vasiliy Shuysky: Arnold BEZUYEN
Andrey Shchelkalov: AKITANI Naoyuki
Pimen: Goderdzi JANELIDZE
The Pretender under the name Grigory: KUDO Kazuma
Varlaam: KONO Teppei
Misail: AOCHI Hideyuki
The Innkeeper: SHIMIZU Kasumi
The Yuródivïy: SHIMIZU Tetsutaro
Nikitich, a police officer (Hauptmann): KOMADA Toshiaki
Mityukha: OTSUKA Hiroaki
The Boyar in attendance (Leibbojar): HAMAMATSU Takayuki

Chorus: New National Theatre Chorus
Orchestra: Tokyo Metropolitan Symphony Orchestra

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