著者の三枝匡氏の著作シリーズは、私の社会人生活の中で最も影響を受けたシリーズと言って過言ではない。中でも本書の原著『戦略プロフェッショナル 競争逆転のドラマ』(1991年刊)は私のキャリアに決定的な影響を与えてくれた書籍である。
私事で恐縮だが、社会人生活3年目、地方の現場フロントでのお客様対応に疲弊して、何を目指して働けば良いのか全く見失っていた時があった。そんな時に、ある人の勧めで手に取った。こういう世界があって、仕事のダイナミクスとは徹底的にロジカルに考えて、熱き心をもってチームを巻き込んで行動し、事をなすとことろにある、と教えてくれた。以来、筆者の著作は出る度に購入したし、自分のキャリアの節目の度に読み直した。
本書は、原著をベースにその後の筆者の実践を踏まえ、新版として全面的に書きなおしたものである。プロローグにあるように、筆者の経験に基づいた事業再生のケースに基づいて語られる「生き方論」であり、「戦略論」であり、「歴史観」である。
ベース・ストーリーは同じだが、原著と本書では趣はかなり異なる。本書は筆者自身の「生き方」や「歴史観」が語られるし、戦略論もより整理されている。ただ、私としては、本書はもちろんのこと、原著にも当たってほしいと思う。新版とは違った30年前の筆者の情熱が迸る気魄を感じることができるからだ。
社会人キャリア後半の今の私には、30年前に原著で感じた理想像と現在とのギャップに自ら苦笑いだが、それでも今もなお、本書から得られる学びは大きい。聞かれたことは無いし、自ら語るようなことでも無いと思うが、仕事上の座右の書とはこういう書を言うのだと思う。
(今も書棚で待機中の原著)