近代以降の世界史を人口動向を切り口に分析する一冊です。著者はロンドン大学に所属する人口学者であり、アカデミックな裏付けのもと一般向けに書き下ろしたものとのこと。人口は国の経済力や軍事力の要となる要素であり、世界史を動かす1つのドライバーとなってきました。本書はこの200年の近現代世界史を人口を切り口に読み解きます。
人口増加の原動力は、1)乳児死亡率、2)出生数、3)移民 (pp.27-32)であり、国の人口増には一定の傾向があります。近代化によって、経済力がつき、乳児死亡率の低下して人口が増える。その後、平均寿命が延びる一方で、女性の高学歴化等で出生率の低下が起こる。加えて移民による出入りが人口に影響を与えます。
各国の政策、社会、宗教、文化等の違いによる相違はあれど、このパターンは産業革命期のイギリスに始まり、それからドイツとロシア、そしてアメリカ、日本、中国と、この傾向を追いかけてきました。そして、今後40年間はナイジェリアをはじめとするアフリカの人口増が、世界へ最大のインパクトを与えるだろうと予測します。
これまで読んできた世界史、日本史関連の本の中では、人口は部分的に言及されるものの、人口切り口で近現代世界史を振り返るというのは初めてで興味深く読み進めることができました。
日本についても、20ページを割いて徳川期から現在に至るまでの人口動向が解説されています。
「日本はマルサスの縛りを突破した最初の非ヨーロッパ国であり、いまや世界でもっとも高齢化が進んでいる。・・・日本が特に興味深いのは、そこには出生率が低く、高齢化する社会の姿があるからだ。日本の人口は、歴史上最も速く高齢化が進んでいる。」「仕事と育児が両立しない文化、男女格差も先進国最低位に近いことが出生率の低下に結びついている」と分析します。欧米諸国と違って、移民の受け入れを渋ってきたことも要因の一つです。(pp.285-301)
目新しい論点ではないとは思いますが、西欧の人口学者が世界的・歴史的視点で見ても、日本についての課題認識は同じようです。「だからどうなんだ?」という答えが書いてあるわけではありません。日本はこのまま縮小再生産で良いではないかという議論もあるかと思います。筆者の予測は、高齢者中心の「平和で活気のない社会」になっていくだろうということです。
ただ、これで良いのだろうかという議論は日本国民としては大切な問いかと思います。人口減のトレンドの中で、日本がどこに何を目指していくのか?は考える価値があるでしょう。個人の力でコントロールできる話ではないだけに、政党や政治家が何を言って、どうしようとしているかも知る必要があります。自民党や国の政策の矛盾も見えてきます。
日本レベル、地球レベルで課題はそれぞれ異なりますが、人口動向は近未来を占う上で大事な視点であることを再認識できます。
※単行本は2019年刊