読み始めたのは2013年7月。上巻途中で止まったまま、長~いお休み期間を経て、やっと読了。
人類史鷲掴みと言える一冊だ。「世界のさまざまな民族が、それぞれに異なる歴史の経路をたどったのはなぜか。歴史の勝者と敗者を分けた要因は何か?」という命題を探求する。タイトルの『銃・病原菌・鉄』はその違いを生み出した直接的要因だが、本書はこの3点の説明ではなく、なぜを繰り返し、銃・病原菌・鉄を欧州人が手にすることができた根本要因を掘り下げる。
筆者の結論は、「大陸間の差は人々(民族)の差ではなく、環境の差に起因する。環境の中でも栽培化、家畜化可能な動植物の分布、大陸の形態(東西/南北)、大陸間の位置関係、大陸の大きさや総人口の差が現在の差を生み出した」というものである。
進化生物学、生物地理学、文化人類学、言語学などを駆使した論考には圧倒される。議論の射程があまりにも大きいので、この論証がどこまで適切なのかは、正直、私の手に負えるものではなかった。ただ、西洋人が世界を制覇したのは条件に恵まれただけであってたまたまだった、という環境要因論は、安易な人種優劣論、ステレオタイプ的な人種認知に傾くことへの戒めになる。
また、内容もさることながら、問題設定とその論点深堀のアプローチも勉強になる。「直接的な要因」で納得することなく、更にWHYを掘り下げ「究極的な要因」へ至っている。こうした思考姿勢も見習いたい。
一方で、筆者の環境要因説は理解しつつも、文化的特異性や個人的特質が「ワイルドカード」として扱われることには違和感が残った。壮大な人類史の中では、個々の人の努力や創意工夫や天才たちの偉業は大した話ではないということかもしれないが、歴史とはそうした行為の積分値であると思うからだ。「ワイルドカード」で済む問題ではないのではないか。
ピュリッツァー賞、国際コスモス賞、朝日新聞「ゼロ年代の50冊」第一位を受賞した名著とされる書籍だが、私自身が本書の本質をどこまで理解し、その価値をどこまで吸収できたのかは、はなはだ心もとない。
余談だが、気に入ったのはこの表紙。良いなあと思ってたら、「奥付」にジョン・エヴァレット・ミレイとあり、さもありなん。原画を見てみたい。