電車に乗る時は優先席が空いていたらそこに座ることにしている。
65歳の老齢だからというわけではない。
例えば優先席に座っているとしよう。
目的地に着くまでに電車が混んでくる。
とある駅で見るからに老人然とした客が乗ってくる。
立っている客の間を縫って優先席のほうにやってくる。
気が利く、あるいは気まずく感じた、優先席に座っている老人以外の客が席を譲れば問題はない。
しかし優先席に座っている客が、優先席対象の客で、席に空きがなければ、あとから来た老人は吊革につかまって立つしかない。
そんな時にそれを見かけた近くの正義感に溢れる若者やサラリーマン、意識高い系の女子などが、意を決して、かなり若作りの私に、老人に席を譲るように言ってくるのを、私は心待ちにしているのだ。
「ここは優先席ですよ。ご老人に席を譲ったらどうですか」
そんな意味のことを非難めいた強い口調で、言ってくるとしよう。
正義感に燃えているので、まわりに聞こえるくらいの声量だ。
それでも席を立たない私に相手は二の矢を放つ。
「優先席と書いてあるでしょう。譲りなさいよ」
ほとんど実力行使に出んばかりの勢いだ。
そこで私はセカンドバッグのファスナーを開け、中からあるものを取り出す。
もちろん拳銃や刃物ではない。
私は取り出したそれを、水戸黄門の格さんよろしく、相手の目の前にかざす。
心の中で声高々に「これが目に入らぬか」と見得を切る。
もちろん葵のご紋の印籠ではない。
手にした青い手帳には"身体障害者手帳"の銀文字が刻まれている。
股関節置換手術で人工股関節になった私は、健常者と変わらないのに、身体障害者4級に認定されているのだ。
それを見た相手の動揺や反応をぜひ見てみたいものだが、いまだにそんなシチュエーションに巡り合ったことがない。
65歳の老齢だからというわけではない。
例えば優先席に座っているとしよう。
目的地に着くまでに電車が混んでくる。
とある駅で見るからに老人然とした客が乗ってくる。
立っている客の間を縫って優先席のほうにやってくる。
気が利く、あるいは気まずく感じた、優先席に座っている老人以外の客が席を譲れば問題はない。
しかし優先席に座っている客が、優先席対象の客で、席に空きがなければ、あとから来た老人は吊革につかまって立つしかない。
そんな時にそれを見かけた近くの正義感に溢れる若者やサラリーマン、意識高い系の女子などが、意を決して、かなり若作りの私に、老人に席を譲るように言ってくるのを、私は心待ちにしているのだ。
「ここは優先席ですよ。ご老人に席を譲ったらどうですか」
そんな意味のことを非難めいた強い口調で、言ってくるとしよう。
正義感に燃えているので、まわりに聞こえるくらいの声量だ。
それでも席を立たない私に相手は二の矢を放つ。
「優先席と書いてあるでしょう。譲りなさいよ」
ほとんど実力行使に出んばかりの勢いだ。
そこで私はセカンドバッグのファスナーを開け、中からあるものを取り出す。
もちろん拳銃や刃物ではない。
私は取り出したそれを、水戸黄門の格さんよろしく、相手の目の前にかざす。
心の中で声高々に「これが目に入らぬか」と見得を切る。
もちろん葵のご紋の印籠ではない。
手にした青い手帳には"身体障害者手帳"の銀文字が刻まれている。
股関節置換手術で人工股関節になった私は、健常者と変わらないのに、身体障害者4級に認定されているのだ。
それを見た相手の動揺や反応をぜひ見てみたいものだが、いまだにそんなシチュエーションに巡り合ったことがない。