「どうやら今度はそうやすやすとは通してくれそうにないですな」
一旦車に戻って、榊は麗夢達に告げた。既に合流して二〇分が経っている。
「でも、どうにかしてあの門を突破しないと」
「うむ。飛び越えるのは造作ない高さではあるが、あの警備員達がちとやっかいですな」
そう話し合ううちにも、門を固める警備員の数が増え、一〇人くらいがひとかたまりになって麗夢達を睨み付けていた。皆、ふん! と力を込めれば胸の筋肉で上着を引き裂きかねない、アメリカンフットボールかプロレスラーでも通用しそうな偉丈夫ばかりである。
「ではこうしよう。私がもう一度彼らの気を引くから、その間に門を乗り越え、中に突入して下さい」
榊の提案に、麗夢は目を丸くして驚いた。
「でも、あんなに大勢。榊警部一人で大丈夫?」
すると榊は、悪戯っぽくウィンクをすると麗夢に言った。
「ご心配なく。まだまだあんな若造共に遅れはとりませんよ。それよりも中の様子が気になる。どうやら一騒動持ち上がっているらしいですぞ」
確かに榊の言う通り、目の前の建物は1階から5階まで全ての照明が煌々と照らされ、右往左往する職員の影が、その窓のそこここに映っている。およそ、研究所という落ち着いた雰囲気からはほど遠い光景である。
「美奈殿や夢見小僧に何かあったやも知れぬ。麗夢殿、この際ためらいは無用だ。急いだ方がよい」
円光もただならぬ気配を感じ取っていた。何か目の前の騒動とは別の巨大な力が、ビルその物にわだかまっているように見える、そんな感じだ。榊、そして円光の助言に、麗夢もようやく決心を付けた。
「じゃあ、榊警部、円光さん、頼むわね」
「ええ」
「心得た」
三人は手早く分担を再確認すると、まず榊が三度目の交渉を求めて詰め所に歩み寄った。警備員達の視線が、一斉にそのレインコートに注がれた瞬間、麗夢は榊の車をスタートさせた。あっと振り返る間もなく門前に滑り込んだ車から、円光、麗夢が相次いで飛び降り、胸ほどの高さの低い門に足をかけた。
「こら待て!」
二人の警備員が気づくが早いか、今にも社内に侵入しようとする二人に飛びかかろうとしてつんのめった。
「まだ話が終わっていない。君らの相手は私だ」
二人の男は、想像もしなかった力に振り回され、門から詰め所に投げ飛ばされた。
「ど、どういう積もりだ!」
「警察を呼べ!」
突然の事態に驚き慌てる男達に向かって、肉食獣が獲物を見定めたような舌なめずりをしながら、榊が言った。
「警察ならここにいる。さあ、久しぶりに一暴れさせて貰おうか」
警視庁一の暴れん坊、榊真一郎の右拳が、それを握りしめた左手の中で戦慄の骨鳴りを奏でた。
警備員を榊に任せて建物に突入した麗夢と円光は、右往左往する職員のただ中でその存在を完全に無視された。赤いミニスカート姿の麗夢と墨染め衣の円光は、明らかに異様に目立つ存在なのだが、誰一人としてそれに注目し、とがめ立てしようとするものはいない。だが、このまま喧噪に巻き込まれてしまってはどうしようもない。二人は白衣を着た手近な若者を捉えると、強引に階段の影へと引きづり込んだ。
「さあ、夢見小僧、美奈殿、ハンス殿の行方を教えて貰おうか」
円光の鬼をもひしぐ形相に、その若者は失神せんばかりに恐れおののいた。だが、麗夢と円光が手に出来たのは、三人に加え、アルファ、ベータが忽然と姿を消したと言う事実だけであった。
「やっぱりここにいたのね!」
麗夢は改めてその事実が確認できて喜んだ。ここまでの苦労はどうあれ、ようやく核心に迫ったのだ。この上は何としても三人と二匹の身柄を確保し、真犯人にその罪を問わねばならない。
「どういたす麗夢殿。どうやらここの連中も美奈殿達の行方を見失っている様子。不案内な建物の中では、動くに動きづらいが」
「この建物の責任者を捕まえましょう。結局情報はそこに集まるわ。さあ、貴方達の上司はどこにいるの?」
「た、高原所長のことですか? 所長なら重要実験施設の方にさっき移動されましたが・・・」
「それはどこだ!」
円光の凄みに、若者はまた悲鳴を上げて、4階の右奥です、と震えながら二人に告げた。
「急ごう麗夢殿!」
「ええ!」
麗夢と円光はその若者を放置すると、目の前の階段を一足飛びに4階目指して駆け上がった。
一旦車に戻って、榊は麗夢達に告げた。既に合流して二〇分が経っている。
「でも、どうにかしてあの門を突破しないと」
「うむ。飛び越えるのは造作ない高さではあるが、あの警備員達がちとやっかいですな」
そう話し合ううちにも、門を固める警備員の数が増え、一〇人くらいがひとかたまりになって麗夢達を睨み付けていた。皆、ふん! と力を込めれば胸の筋肉で上着を引き裂きかねない、アメリカンフットボールかプロレスラーでも通用しそうな偉丈夫ばかりである。
「ではこうしよう。私がもう一度彼らの気を引くから、その間に門を乗り越え、中に突入して下さい」
榊の提案に、麗夢は目を丸くして驚いた。
「でも、あんなに大勢。榊警部一人で大丈夫?」
すると榊は、悪戯っぽくウィンクをすると麗夢に言った。
「ご心配なく。まだまだあんな若造共に遅れはとりませんよ。それよりも中の様子が気になる。どうやら一騒動持ち上がっているらしいですぞ」
確かに榊の言う通り、目の前の建物は1階から5階まで全ての照明が煌々と照らされ、右往左往する職員の影が、その窓のそこここに映っている。およそ、研究所という落ち着いた雰囲気からはほど遠い光景である。
「美奈殿や夢見小僧に何かあったやも知れぬ。麗夢殿、この際ためらいは無用だ。急いだ方がよい」
円光もただならぬ気配を感じ取っていた。何か目の前の騒動とは別の巨大な力が、ビルその物にわだかまっているように見える、そんな感じだ。榊、そして円光の助言に、麗夢もようやく決心を付けた。
「じゃあ、榊警部、円光さん、頼むわね」
「ええ」
「心得た」
三人は手早く分担を再確認すると、まず榊が三度目の交渉を求めて詰め所に歩み寄った。警備員達の視線が、一斉にそのレインコートに注がれた瞬間、麗夢は榊の車をスタートさせた。あっと振り返る間もなく門前に滑り込んだ車から、円光、麗夢が相次いで飛び降り、胸ほどの高さの低い門に足をかけた。
「こら待て!」
二人の警備員が気づくが早いか、今にも社内に侵入しようとする二人に飛びかかろうとしてつんのめった。
「まだ話が終わっていない。君らの相手は私だ」
二人の男は、想像もしなかった力に振り回され、門から詰め所に投げ飛ばされた。
「ど、どういう積もりだ!」
「警察を呼べ!」
突然の事態に驚き慌てる男達に向かって、肉食獣が獲物を見定めたような舌なめずりをしながら、榊が言った。
「警察ならここにいる。さあ、久しぶりに一暴れさせて貰おうか」
警視庁一の暴れん坊、榊真一郎の右拳が、それを握りしめた左手の中で戦慄の骨鳴りを奏でた。
警備員を榊に任せて建物に突入した麗夢と円光は、右往左往する職員のただ中でその存在を完全に無視された。赤いミニスカート姿の麗夢と墨染め衣の円光は、明らかに異様に目立つ存在なのだが、誰一人としてそれに注目し、とがめ立てしようとするものはいない。だが、このまま喧噪に巻き込まれてしまってはどうしようもない。二人は白衣を着た手近な若者を捉えると、強引に階段の影へと引きづり込んだ。
「さあ、夢見小僧、美奈殿、ハンス殿の行方を教えて貰おうか」
円光の鬼をもひしぐ形相に、その若者は失神せんばかりに恐れおののいた。だが、麗夢と円光が手に出来たのは、三人に加え、アルファ、ベータが忽然と姿を消したと言う事実だけであった。
「やっぱりここにいたのね!」
麗夢は改めてその事実が確認できて喜んだ。ここまでの苦労はどうあれ、ようやく核心に迫ったのだ。この上は何としても三人と二匹の身柄を確保し、真犯人にその罪を問わねばならない。
「どういたす麗夢殿。どうやらここの連中も美奈殿達の行方を見失っている様子。不案内な建物の中では、動くに動きづらいが」
「この建物の責任者を捕まえましょう。結局情報はそこに集まるわ。さあ、貴方達の上司はどこにいるの?」
「た、高原所長のことですか? 所長なら重要実験施設の方にさっき移動されましたが・・・」
「それはどこだ!」
円光の凄みに、若者はまた悲鳴を上げて、4階の右奥です、と震えながら二人に告げた。
「急ごう麗夢殿!」
「ええ!」
麗夢と円光はその若者を放置すると、目の前の階段を一足飛びに4階目指して駆け上がった。