かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

11.怪盗の賭け その5

2007-12-23 23:50:00 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
「・・・本当に、死神の仕業なのかしら・・・」
 一時間振りにぽつりとこぼした麗夢の言葉は、再びアルファ、ベータの気配をつかもうと念に入る寸前だった円光の意表を突いた。
「い、今何とおっしゃられた、麗夢殿」
「私、これが死神の仕業かどうか、判らなくなってきたの」
 すっかり日が暮れ、急速に闇へ呑み込まれていく山間地。行き交う車もなく、思い出したように立っている外灯の光に照らされながら、麗夢は円光に言った。
「だっておかしいわ。死神だとしたら一体どうしてもっと早く攻撃してこないの? 私が夢に入れなくなった今なら、いくらでも料理のしようがあるでしょうに・・・」
「それは、まだアルファやベータ、それに拙僧も控えている故、様子をうかがっているのやも知れませぬ」
「・・・でも、そのアルファとベータは行方不明よ」
「それは!」
 円光の反駁を制して、麗夢が言った。
「いえ、円光さんが強力な抑止力になっているのは判るわ。でも、死神ならいくらでもやりようがありそうじゃない。別の夢魔をおとりに使って円光さんを引き離すとか」
 確かに死神なら、さまざまな手練手管を弄して麗夢を一人にするくらいは至極あっさりやってのけるであろう。そして、夢に入り、夢の戦士になる力を失った今の麗夢なら、料理方法の選択はまさに死神の望みのままに違いない。そんな不吉な予想に円光は激しい憤りを感じたが、もし本気でそんな手で死神が襲ってきた場合、自分一人でそれを阻止して麗夢を守り通せるか、冷静に考えてみれば、それがいかに困難を極めるかは、血の上った頭でも容易に理解できた。
「だが、麗夢殿が鬼童殿の夢で見たのは、確かにきゃつだったのであろう?」
「そうなの。でも、やっぱりあれも変だわ。あのチャンスにどうして私を攻めず、鬼童さんも結局は殺さず、そのまま何もせずに消えちゃうなんて。いえ、それ以前にどうして美奈ちゃんや夢見さんやハンスさん、それに今ならアルファとベータもだけど、一体何が目的でこの人達をさらっていったのか、そして何をしているのか、犯人が死神だとしたら全然見当がつかないことばかりだわ」
 麗夢はこれまでずっと考えていたのだ。結局死神があの鬼童の夢にしか現れていないことに疑問を感じ続けていた。今まで死神が絡んだ事件で、あの闇その物と言っていい影がこれほど薄かったことがあっただろうか?
「それに、ずっと死神の気配を感じないわ。私、夢に入る力と一緒に、そんな感覚も無くしちゃったのかしら?」
「いや、確かにそう言われると拙僧にもきゃつめの気配はついぞ感じなかった。何を狙っているにせよ、あまりにその影が薄すぎる。うむ、麗夢殿の疑問は至極もっともだ」
 円光の頷きに、麗夢も首を縦に振った。
「とにかく、ずっと謎ばかりで話が全然見えてこない。そろそろ私も限界かも知れないわ」
 いつになく弱気な麗夢に、円光は慌てて言った。
「麗夢殿、確かに今は五里霧中もいいところだが、霧は必ず晴れるときが来る。それを信じて頑張るんだ。拙僧も及ばずながら力を尽くそう」
「・・・そうね。ありがとう円光さん・・・あ、電話だ・・・。榊警部からだわ」
「何、榊殿から?」
 麗夢は一旦車を左に寄せ、ハザードランプを付けて停止させた。
「榊警部! 何かあったんですか?」
『麗夢さん! 今どこに 』
「え? い、今ですか? エーと、榊警部を追って、常磐道を降りて茨城県の先端科学技術工業団地に向かっている途中ですけど・・・」
『それは良かった! どうやら手がかりを見つけましたぞ。私は団地の入り口で待っていますから、出来るだけ急いで!』
「え? 本当に! す、直ぐ行きます!」
 麗夢は電話を切ると、輝く笑顔を円光に向けた。
「円光さん! 榊警部が何か手がかりをつかんだらしいわ! これも円光さんのおかげね!」
 榊の興奮が麗夢にも伝染したのか。円光はまぶしいものを見るように目を細め、わずかに頬を赤らめて言った。
「さあ、急ぎましょう! 榊殿が待っておられる」
「ええ、しっかり掴まっててね、飛ばすわよっ!」
 見違えるように明るくなった麗夢が、サイドブレーキを解除するのももどかしいとばかりにアクセルを踏み込んだ。プジョーはそれに応えて勇ましい咆哮を奏でると、アスファルトに白煙とタイヤ跡を残しながら、全推力を振り絞って山の中へ文字通り飛び出していった。


 
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「ドリームジェノミクス」も、ようやく終盤に入ります。

2007-12-23 23:48:30 | Weblog
 今日は年賀状の仕上げをしてポストに投函、ほんの少し部屋を片付けつつPCの動作チェック。一応問題なく動いているみたいですが、Fire Foxがエラーで立ち上がらなかったりする小さなトラブルが時折生じ、完全とは行かないみたいです。まあ一昨日までの、起動時に無事立ち上がるかどうかは運次第だったのと比べれば、はるかに安定しているといえます。あとはやっぱりハードディスク交換でしょうか。日ごろの使い方からしたらせいぜい数十ギガバイトもあれば十分用が足りるのですが、最近は100GB以上が当たり前、500GBでも1万2,3千円位であるそうで、小さいのははるかに割高になってしまうようです。まあこちらは今のところそうあわてるものでもなさそうなので、適当なサイズと値段を考慮しつつ、機会を見て入手することにしようと思います。それよりも、ディスプレイを目に優しいタイプに替えたいですし、キーボードも、もう少し指が疲れないタイプのものを導入したいところです。

 さて、今日の掲載で『ドリームジェノミクス』も中盤を終え、終盤に入っていきます。圧倒的な力を秘める高原博士に対し、反旗を翻す美奈、夢見小僧、ハンスのコンビ。手がかりをつかんだ榊、力を失いつつもとらわれの3人の救出にむかう麗夢、そして付き従う円光。その後を追う鬼童と役者が揃い、麗夢の力が消えた謎、高原の目的、結局『死神』は? などを解き明かしつつ、最後の決戦に向けて突き進んでいくことになります。
 ここまで改めて読み直して思い出したのは、特に前半、本当にあんまり考えないで書き散らかしてしまったなぁ、という反省です。今回、文章構成や中身を推敲し、場合によっては大胆に書き換えもしているのですが、前半大幅にいじくっていた割りに、今はほとんどそのままコピー&ペーストで元原稿をアップしております。これは、当初作中の時間設定もあいまいなまま、ただ締め切りだけ考えて見切り発車で書き始めたせいで、話も一本調子になっていましたし、当初書いているときも、先を続けるのに四苦八苦しておりました。それが後半話の中身がだんだんあらわになってくるとそんな苦しさが抜け、かなり楽にお話を続けることができるようになりました。そんな後半でも、今考えてみて、書くべきだったのに書くことができなかった点がひとつあることが見えておりますので、その辺をしっかり見極め、直しを入れて行きたいと思います。
 とまあ終盤に差し掛かっているのは確かなのですが、実はまだ全体の三分の1残っております。最終回はまだ当分先の話になりますので、どうか気長にお付き合い願えたら幸いです。


 
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