Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

タンクレーディ

2010年06月12日 | 音楽
 アルベルト・ゼッダを指揮者に迎えた藤原歌劇団によるロッシーニのオペラ「タンクレーディ」。いつもながらゼッダが振ると、どうしてこうもチャーミングな演奏になるのだろう。音の軽さ、リズムやフレージングの正確さ、バランスのよさ、それらがあいまって、つまりはこれが「芸」というものなのだろう。幸いにもゼッダはこのところ毎年のように日本に来てくれるので、私たちはその演奏にふれる機会に恵まれている。今回の「タンクレーディ」も素晴らしいできだった。

 タイトルロールはマリアンナ・ピッツォラートMarianna PIZZOLATOという歌手で、この役を持ち役にしているらしい。柔らかみのある声質と、高音から低音までの均質な声域をもっている歌手だ。
 タイトルロールと同程度に重要な役のアメナイーデは高橋薫子さん。大健闘だった。ソロはもちろんのこと、第1幕と第2幕にそれぞれ1箇所ずつあるタンクレーディとの二重唱では、柔らかみのあるメゾとクリアーなソプラノが溶け合って、見事な展開だった。
 アルジーリオは若いテノールの中井亮一さん。実は私はこの歌手には思い出があって、私が過去に一度だけ出かけたことのあるペーザロのロッシーニ・オペラ・フェスティヴァル(2007年)で、「ランスへの旅」に騎士ベルフィオール役で出ていた。私はそのときも若い才能の出現を嬉しく思ったが、今回はさらに成長していた。なお第2幕の冒頭のアリアがばっさりカットされていてショックを受けたが、あとで高崎保男さんのプログラム・ノートを読んだら、ペーザロでも常にカットされる習慣とのこと。
 そのほか、彭康亮Kang-Liang PENGさん、鳥木弥生さん、松浦麗さんもよくやっていた。
 これらの6人の歌手が緊密なアンサンブルを組んでいたことが、公演の成功の要因だ。ときどき外国から招聘した歌手が突出する公演があるが、今回はそのようなことはなかった。もちろんゼッダの存在が大きいはず。

 オーケストラは読売日響。序曲ではちょっと力が入っていたが、すぐに快調に滑りだした。透明感のあるハーモニーはさすがだ。ざっと見渡したところ、小編成ながら首席奏者クラスが多く入っていた。売り公演だろうが、手抜きをしないところがよい。

 全体のレベルがここまで上がってくると、合唱にはもう少し頑張ってほしくなる。とくに最近は新国立劇場合唱団のレベルが上がっているので、どうしても比較してしまう。

 演出は強い主張もなく、交通整理をした程度。場面転換では紗幕を多用していて、ことに第2幕では少々煩わしかった。前述した2007年のペーザロでは、「どろぼうかささぎ」と「オテッロ」で素晴らしく意欲的な演出にふれた。いずれ日本でもそのような時代が来るとよい。
(2010.6.11.東京文化会館)
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