Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

大野和士/都響

2012年06月19日 | 音楽
 大野和士指揮の都響。今や大野さんには風格が感じられるようになった。都響の指揮台に立つ大野さんを見ていると、昔「正指揮者」だった頃を思い出す(あれは何年前のことだろう)。今では大きく成長して、別人のようになった。

 1曲目はシェーンベルクの「浄められた夜」。重心の低い、安定した、しかもドラマティックな演奏だ。世紀末的な、神経質な演奏ではまったくない。ヨーロッパの伝統、あるいは風土に深く根を張った演奏だ。指揮棒の先端が震え、しなやかに波打つ。情熱的な、どっぷりヨーロッパに浸かった演奏が生まれる。

 今まで感じたことはなかったが、その指揮ぶりを見ていて、サヴァリッシュを思い出した。大野さんはバイエルン州立歌劇場でサヴァリッシュとパタネーに師事した。パタネーから学んだことも大きかったろうが、サヴァリッシュからも同じくらい大きなものを学んだことが感じられた。

 2曲目はシマノフスキのヴァイオリン協奏曲第1番。ヴァイオリン独奏は庄司紗矢香さん。これは驚異的な名演だった。これほど存在感のある演奏はめったにない。主役はもちろん庄司さんだが、大野さんもパリ・オペラ座で「ロジェ王」を振っているくらいだから、シマノフスキには思い入れがあるのかもしれない。

 シマノフスキ(1882~1937)はバルトーク(1881~1945)と同時代人だ。ともに東欧に生まれ(ポーランドとハンガリー)、活動の場とした。けれどもこの曲を聴いていると、二人の資質のちがいが圧倒的に迫ってきた。シマノフスキは官能的で、エキゾティックなオリエンタリズムを忍び込ませている。一方、バルトークには民俗的な力動感がある。

 3曲目はそのバルトークの「管弦楽のための協奏曲」。演奏は「浄められた夜」と同様、重心の低い、ドラマティックなものだった。第1楽章の最後が決まりそこなった。なにが起きたのだろう。小さな事故だった。

 興味深かったのは、大野さんが振ると、この曲が近代的な明るい音色ではなく、もっとくすんだヨーロッパ的な音色になることだった。大野さんの個性ができあがりつつあることを感じた。今までの日本人指揮者にはなかった個性だ。

 大野さんはリヨン歌劇場で実績を積んでいるが、これから先、どこに行っても、どんなポストに就いてもおかしくない。責任はますます増すだろう。大野さんの音楽家人生を見守りたい。
(2012.6.18.サントリーホール)
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