Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ブエノスアイレスの四季

2012年07月05日 | 音楽
 去年は期待していた公演が二つ中止になった。一つはピアソラの「ブエノスアイレスのマリア」。東日本大震災の発生(というよりも原発事故の発生)が原因だった。もう一つはゴリホフの「アイナダマール(涙の泉)」。こちらは主催者側の事情が原因だった。

 「アイナダマール」は世界のどこかでたまにやられているので、いずれ観る機会があるかもしれない。けれども「ブエノスアイレスのマリア」はどうだろう。惜しい機会を逃したものだと思っていた。

 その埋め合わせでもないだろうが、ピアソラの「ブエノスアイレスの四季」をメインにした演奏会が開かれた。ピアソラ晩年の五重奏団でピアニストを務め、ピアソラの音楽の生き証人のような存在パブロ・シーグレルによるもの。シーグレルが編曲し、ピアノを弾き、オーケストラを指揮する演奏会だ。

 オーケストラは臨時編成の室内オーケストラ(ホルンに日本フィルからN響に移籍した福川伸陽さんが入っていた)。シーグレルはオルフェウス室内管弦楽団とも共演しているので、その経験がいかされた演奏会なのだろう。

 だが、率直にいうと、ピアソラの音楽がストリングスで流麗に演奏されることには違和感があった。ムード音楽といっては言い過ぎだが、ピアソラの牙が抜かれて、大人しくなってしまったような感じがした。場末の猥雑さがなくなり、東京オペラシティ・コンサートホールにふさわしい上品さに変身した。

 その意味では、逆に、ピアノ、ベース、ドラムス、バンドネオンの4人のセッションで演奏された「リベルタンゴ」が一番面白かった。室内オーケストラ用に編曲されたほかの曲にはないノリのよさがあった。

 「ブエノスアイレスのマリア」のなかから「フーガと神秘」も演奏された。曲としてはこれが一番面白かった。フーガとはいっても、クラシックのフーガとはちがって、もう少しシンプルなものだ。パリでナディア・ブーランジェに師事したピアソラが、フーガを習得したうえで、タンゴに応用したもの。この曲はアンコールでも演奏された。

 「ブエノスアイレスの四季」は2011年にオルフェウス室内管弦楽団の委嘱により編曲されたものがベースになっているそうだ。ゴージャスといえばゴージャスな編曲だが、彫りが深くて、聴き応えがあった。元々は独立した4曲だ。今回は、冬、秋、春、夏の順に演奏され、演奏時間約30分の大曲になっていた。
(2012.7.4.東京オペラシティ)
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