Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ドビュッシー展

2012年08月06日 | 音楽
 今年はドビュッシーの生誕150年。それを記念して「ドビュッシー音楽と美術」展が開催されている。パリのオルセー美術館とオランジェリー美術館との共同企画。パリではオランジェリー美術館で2月22日~6月11日まで開催された。本展はその日本版。

 ドビュッシーは西洋音楽史のなかでも五指に入る真の天才だ――と言うと、「そんなことはお前に言われなくてもわかっている」と怒られそうだし、「そうかな」と反論を受けるかもしれない。なので、こう言い直してもいい、「わたしは素人なりにそう思っている」。

 そしてその特異な点は、ドビュッシーという一人の作曲家のなかに、音楽と美術と文学が凝縮していることだ。こういう存在は古今東西ドビュッシーしかいない――あるいは、控えめに言っても、ドビュッシーをしのぐ人はいない。音楽はもちろんのこと、美術はマネ、モネ、ドガ、そして(本展でも大きく取り上げられている)モーリス・ドニ。文学はボードレール、ヴェルレーヌ、マラルメ。このような在り方が可能になったのは、当時のパリの力だった、と思わざるを得ない。

 本展は音楽と美術の邂逅に焦点を当てたものだ。過去のオルセー美術館展で来日した作品も複数含まれている。印象派展、ないしはポスト印象派展として見ることも可能だ。

 わたしはドビュッシーの遺品展として見た。たとえば日本製の蒔絵「金の魚」。言うまでもなく「映像」第2集の第3曲「金の魚」のインスピレーションを得た漆工芸だ。これがドビュッシーの仕事部屋に掛けてあったそうだ。水のなかをダイナミックに泳ぐ金の魚(錦鯉)の雄姿に曲のエッセンスが感じられた。

 もう一つあげるなら、エジプト王朝の出土品「カノーポスの壺」。これは「前奏曲集」第2巻の第10曲「カノープ」のインスピレーション源になったものにちがいない。今まで「カノープ」とは古代エジプトの壺だと説明されてきたが、どういうものかはわからなかった。意外に小さくて、手のひらに乗るサイズだ。そこに男の顔が描かれている。なにかこだわりのある顔だ。これはもちろんドビュッシーの所有物ではない。でもドビュッシーが見ていたのはこれか。

 「カノーポスの壺」の横には「ビリティス」があった。大きさは同サイズだ。これがピエール・ルイスに霊感を与えて詩作をうながし、ドビュッシーの「ビリティスの3つの歌」に結実した出土品だろうか。
(2012.8.3.ブリヂストン美術館)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする