Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

林光追悼・東混八月のまつり

2012年08月10日 | 音楽
 毎年恒例の東京混声合唱団の「東混八月のまつり」。今年は林光さんが亡くなったので、その追悼公演になってしまった。

 まずは「原爆小景」。2001年に作曲された「永遠のみどり」で完成したこの曲を、完成版として生で聴くのは、これが初めてだ。以前CDで聴いたときには違和感があった「永遠のみどり」も、生で聴くと、なるほどこれ以外にはありえないと感動が湧いてきた。

 指揮は寺嶋陸也さん。普段はピアニストとして、林光さんを支えてきたというか、同志として行動を共にしてきた人だ。おそらく万感こみ上げそうになったと思うが、努めてそれを抑えているように見えた。

 休憩をはさんで2曲目は「コメディア・インサラータ」。俵万智の「サラダ記念日」から12首を選んで作曲したもの。初めて聴いたが、これは楽しい曲だ。「原爆小景」が林光さんのシリアスな面を代表するとすれば、これはエンターテイメント性を代表する曲ではないかと思う。

 この曲の指揮は山田和樹さん。ひじょうに丁寧な仕上がりだ。演奏としてはこの曲が一番よかった。山田和樹さんはこの夏も超多忙だが、質の低下を招かないのが驚異的だ。

 次に林光さんの編曲で「日本抒情歌曲集」から5曲。その1曲目の「浜辺の歌」が始まると、フワッと心がやわらぎ、2番になったら涙が浮かんだ。

  あした浜辺を さまよえば
  昔のことぞ 忍ばるる
  風の音よ 雲のさまよ
  寄する波も 貝の色も

  ゆうべ浜辺を もとおれば
  昔の人ぞ 忍ばるる
  寄する波よ 返す波よ
  月の色も 星の影も

 夜の浜辺が目に浮かんできた。涙は過去への郷愁だったのか。失った人への悔恨だろうか。

 最後は佐藤信の詞に曲を付けた「うた」と「ねがい」。どちらも好きな曲だが、久しぶりに聴いて、また感傷的になってしまった。両曲とも左翼的な思想に支えられた詞だが、当時これにはリアリティがあった。今になってみると、そのまっすぐな感性が懐かしい。

 アンコールに2曲。まず谷川俊太郎の作詞/武満徹の作曲による「死んだ男の残したものは」。この曲を聴くといつも涙が出るわたしは、マズイと思った。案の定、今回も例外ではなかった。そして2曲目は宮沢賢治の作詞/作曲の「星めぐりの歌」。これは予想されたところだ。林光さんを送るにはこれ以上の曲はないだろう。
(2012.8.9.第一生命ホール)
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