19世紀後半にイギリスで興った唯美主義は、絵画だけでなく、工芸や文学にもおよび、一大ブームになった。「ザ・ビューティフル――英国の唯美主義1860‐1900」展は当時を概観する企画展だ。
唯美主義は、耽美主義あるいは審美主義と同義らしい。英語ではAestheticism。‘唯美’と‘耽美’と‘審美’ではニュアンスがちがうような気もするが、厳密には区別されていないようだ。
ラファエル前派のロセッティやバーン=ジョーンズの作品も並んでいるが、知らない画家も多かった。なかでも、アルバート・ムーア(1841‐1893)の「真夏」(1887)には驚嘆した。この一作を見るだけでも本展に行った甲斐があるというものだ。
本作は、照明の関係もあるだろうが、文字どおり‘浮き上がって’見えた。これはすごかった。中央で椅子にゆったり腰をかけてまどろむ女性。その両脇に立って扇子で風を送る女性たち。それら3人の女性が身にまとうオレンジ色の衣裳。うぐいす色の扇子。椅子の冷たい金属の感触。
けれどもこの作品、近寄って見ると、意外に色の塗り方がまだらだった(離れて見ると想像もつかないけれど)。おそらくこれが本作の秘密なのだろう。離れて見たときの‘浮き上がって’見える仕掛けなのだろう。
同じことは「花」(1881)についてもいえた。花の女神フローラを描いた作品だと思うが(ただし英語の標題はBlossoms)、これも近づいて見ると、衣装のピンク色がまだらに塗られていた。
もう一人、フレデリック・レイトン(1830‐1896)の「パヴォニア」も美しかった。一人の女性が振り返ってこちらを見ている。その黒い瞳に射すくめられて、目をそらすことができなかった。これも実際に見ないとわからない美しさだと思う。
音楽好きにはギルバート&サリバンのオペラ「ペイシェンス」のプログラムが興味深いと思う。これは唯美主義の流行にたいする風刺オペラだ。初演は1881年。このプログラムは1882年のものだ。うすっぺらな紙一枚のプログラム。それもギルバート&サリバンに相応しい気がする。当時このオペラは大ヒットした。バカバカしくも可笑しいオペラだ。なお主人公バンソーンはオスカー・ワイルドがモデルという記述を見かけるが、これは俗説らしい。正しくは詩人スウィンバーンやロセッティがモデルのようだ。
(2014.3.20.三菱一号館美術館)
↓アルバート・ムーア「真夏」
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Moore_Albert_Midsummer.jpg
↓↓アルバート・ムーア「花」、フレデリック・レイトン「パヴォニア」
http://mimt.jp/beautiful/midokoro.html
唯美主義は、耽美主義あるいは審美主義と同義らしい。英語ではAestheticism。‘唯美’と‘耽美’と‘審美’ではニュアンスがちがうような気もするが、厳密には区別されていないようだ。
ラファエル前派のロセッティやバーン=ジョーンズの作品も並んでいるが、知らない画家も多かった。なかでも、アルバート・ムーア(1841‐1893)の「真夏」(1887)には驚嘆した。この一作を見るだけでも本展に行った甲斐があるというものだ。
本作は、照明の関係もあるだろうが、文字どおり‘浮き上がって’見えた。これはすごかった。中央で椅子にゆったり腰をかけてまどろむ女性。その両脇に立って扇子で風を送る女性たち。それら3人の女性が身にまとうオレンジ色の衣裳。うぐいす色の扇子。椅子の冷たい金属の感触。
けれどもこの作品、近寄って見ると、意外に色の塗り方がまだらだった(離れて見ると想像もつかないけれど)。おそらくこれが本作の秘密なのだろう。離れて見たときの‘浮き上がって’見える仕掛けなのだろう。
同じことは「花」(1881)についてもいえた。花の女神フローラを描いた作品だと思うが(ただし英語の標題はBlossoms)、これも近づいて見ると、衣装のピンク色がまだらに塗られていた。
もう一人、フレデリック・レイトン(1830‐1896)の「パヴォニア」も美しかった。一人の女性が振り返ってこちらを見ている。その黒い瞳に射すくめられて、目をそらすことができなかった。これも実際に見ないとわからない美しさだと思う。
音楽好きにはギルバート&サリバンのオペラ「ペイシェンス」のプログラムが興味深いと思う。これは唯美主義の流行にたいする風刺オペラだ。初演は1881年。このプログラムは1882年のものだ。うすっぺらな紙一枚のプログラム。それもギルバート&サリバンに相応しい気がする。当時このオペラは大ヒットした。バカバカしくも可笑しいオペラだ。なお主人公バンソーンはオスカー・ワイルドがモデルという記述を見かけるが、これは俗説らしい。正しくは詩人スウィンバーンやロセッティがモデルのようだ。
(2014.3.20.三菱一号館美術館)
↓アルバート・ムーア「真夏」
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Moore_Albert_Midsummer.jpg
↓↓アルバート・ムーア「花」、フレデリック・レイトン「パヴォニア」
http://mimt.jp/beautiful/midokoro.html