Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

矢崎彦太郎/東京シティ・フィル

2014年03月27日 | 音楽
 3月は人事の季節、別れの季節。長らく――2002年以来だそうだ――東京シティ・フィルの首席客演指揮者を務めた矢崎彦太郎が、3月末で任期を終える。その最後の演奏会があったので、送別会のつもりで出かけた。

 1曲目はスメタナの「モルダウ」。冒頭、フルート2本が囁くような弱音で演奏を始め、やがて各種の楽器に受け継がれ、そして第1ヴァイオリンがテーマを演奏し始める、その演奏がしっとりしていることに感じ入った。いつもは東京オペラシティ・コンサートホールで聴いているこのオーケストラの熱い演奏とは、だいぶ印象がちがった。

 2曲目はモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」。ヴァイオリン独奏は米元響子。オーケストラの演奏が始まると、穏やかで、昔LPレコードで聴いたことがあるような懐かしい音が聴こえた。予想どおりという気がした。でも、その一方で、矢崎さんのモーツァルトを聴くのは初めてではないか、という気もした。フランス音楽に傾きがちで――わたしの場合は――、矢崎さんの大事なレパートリーを聴き落としていたのではないかと思った。

 米元響子の独奏は、演奏が進むにつれて、楽器がよく鳴るようになり、第3楽章の例の‘トルコ風’の部分ではオーケストラと丁々発止のやりとりを聴かせた。そこが一番の聴きどころだった。でも、どういうわけか、この部分では、オーケストラのコル・レーニョがそれらしく聴こえなかった。3階後方のわたしの席のせいか。

 3曲目はシベリウスの「フィンランディア」。矢崎さんのプログラムには常になにか工夫があるが、今回の場合はこの曲だった。合唱付きで演奏された。東京シティ・フィル・コーアの演奏にはさらなる完成度を求めたいが、でも、そんなことは二の次、フィンランド語の語感に涙ぐんだ。母音優勢の――その意味では日本語と似ている――フィンランド語のすんだ語感が、今でも耳に残っている。

 4曲目はラヴェルの「ボレロ」。比較的遅めのテンポ設定だったことにも表れているが、慎重な演奏だった。最近優秀な若手木管奏者が入っているので、その人たちのソロを楽しむことに専念した。ただ、ピッコロ2本とホルンとチェレスタで演奏する部分では、ホルンの音が大きすぎた。

 アンコールにラヴェルの「マ・メール・ロア」から終曲「妖精の園」が演奏された。この曲はこんなに別れにふさわしい曲だったのか――。
(2014.3.26.東京芸術劇場)
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