Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

死の都

2014年03月19日 | 音楽
 新国立劇場の「死の都」。フィンランド国立歌劇場のプロダクションのレンタルだ。演出はデンマークのカスパー・ホルテン。これは‘北欧プロダクション’。舞台美術にも人間描写にも、それに相応しい透明感があった。装置、衣装そして照明は北欧の人たちではないが、全体コンセプトは演出のホルテンのものだろうから、北欧らしい感覚で統一されていたといってもいいだろう。

 昔このオペラを観たくて、ウィーンに行ったことがある。ウィリー・デッカーの演出だった。あのときはどぎつい色彩感だった――舞台美術も人間描写も――。ドナルド・ラニクルズの指揮がそれに輪をかけていた。この作品の性格からいって、それも一理あるのだが、それと今回とどちらがいいかと問われたら、わたしは今回のほうが好ましい。

 フィンランド国立歌劇場の公演がDVDになっているそうだ。細部にどの程度のちがいがあるのだろう。これはまったくの想像だが、フィンランドでは官能的なものが、もう少しきちんと位置付けられているのではないだろうか。日本の舞台ではそれが遠慮がちにほのめかされるだけで、かえって気になるというか、変な感じがした。

 歌手ではパウル役のトルステン・ケールがよかった。さすがの力量だ。でも、それを前提にいうのだが、低音域で声音が変わることが、気になるといえば気になった。ケールはこれまでもハンブルクやバイロイト、それに東京で聴いてきたが、あまりこのことには気付かなかった。前からそうだったか。

 マリエッタ/マリー役のミーガン・ミラーもよかったが――これは皮肉でもなんでもなく、正直にいうのだが――、一番ゾクっとしたのは、第1幕の幕切れで舞台裏から聴こえてくるマリーの声だった。逆にいえば、マリエッタの悪女らしさ・下品さは、あまり出ていなかったのではないだろうか。

 フランク/フリッツ役のアントン・ケレミチェフは、歌も演技もなんの不足もないのだが、どういうわけか印象が薄かった。当初予定されていたトーマス・ヨハネス・マイヤーなら、もっと華のあるフランク/フリッツになった気がする。

 ブリギッタ役の山下牧子が光っていた。脇を固めるこういう日本人歌手が揃ってきたことが、この劇場の――歩みは遅いが――成長を感じさせる。

 ヤロスラフ・キズリンク指揮の東京交響楽団には音色面での艶がほしかった。この公演で欠けている点があったとすれば、そこだと思う。
(2014.3.18.新国立劇場)
コメント (2)
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