Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ロペス・コボス/N響

2014年05月19日 | 音楽
 ヘスス・ロペス・コボス指揮のN響。コボスの指揮は今まで何度か聴いたことがあるが、昨年11月に都響を振ったショスタコーヴィチの交響曲第13番「バービイ・ヤール」でその実力を知った。

 今回はスペイン・プロ。お国ものであり、名刺代わりの曲かもしれないが、ほんとうにやりたい曲かどうか、と考えるのは、考えすぎだろうか。

 といっても、1曲目のクリストバル・アルフテル(1930‐)の「第1旋法によるティエントと皇帝の戦い」は、コボスが日本人の聴衆に紹介したい曲だったろう。伊藤制子氏のプログラム・ノーツによれば、この曲はカベソン(1510‐1566)のオルガン曲「第1旋法によるティエント」とカバニーリェス(1644‐1712)のオルガン曲「皇帝の戦い」を近代オーケストラ用に編曲した作品。前半のカベソンは古雅な曲、後半のカバニーリェスは賑やかな曲だった。

 カベソンもカバニーリェスも知らなかったが、手元の音楽辞典によると、ともにスペイン音楽史で重要な作曲家のようだ。この時代の作曲家ではビクトリア(1548‐1611)がビッグネームだが、その前後に位置する人たちだ。つまりこの曲はスペイン音楽の伝統に対するオマージュだろう。

 2曲目はラロのチェロ協奏曲。独奏はヨハネス・モーザー。チェロもオーケストラも穏やかな演奏だった。穏やかすぎて物足りなくもあったが、では、ほかにどういう演奏があり得るか、見当がつかなかった。アンコールにバッハの無伴奏チェロ組曲第1番からサラバンド。小声でつぶやくような演奏だった。

 3曲目はファリャの「三角帽子」。アルフテル、ラロと聴いてくると、ファリャの音の活きのよさが際立っていた。大袈裟かもしれないが、スコアのどのページにも天才の刻印がある、という感じがした。演奏も冴えていた。ファリャに相応しい明晰さがあった。

 でも、この演奏は――とくにフィナーレの部分で――静かな熱狂というか、熱狂の底に覚めた意識があるように感じられた。N響らしいといえばそれまでだが、もう少し根深い問題があるかもしれない――日本人の感性とかプロ意識とか――。

 ファリャはこの曲の後、もう大作は書かなかった――「ペドロ親方の人形芝居」があるくらいだ――。詩人のロルカがファシスト党に殺されてからは、アルゼンチンに渡り、そこで生涯を終えた。そういうファリャの人生に想いをはせた。
(2014.5.17.NHKホール)
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