Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

フォートリエ展

2014年07月05日 | 美術
 ジャン・フォートリエ展。今年前半の注目展の一つだが、なかなか行けずに、ここまできてしまった。東京展は7月13日で終了する。7月20日からは豊田市美術館に巡回し、9月27日からは大阪の国立国際美術館に巡回する。

 ジャン・フォートリエJean Fautrier(1898‐1964)。昔(あれはいつだったか‥)、大原美術館で「人質」(1944年)という作品を見たときに、衝撃を受けた。息苦しい思いがした。名作の数々が並ぶ館内で、それは明らかに異彩を放っていた。

 図録その他で、その作品はフォートリエが1943年にドイツ軍占領下のパリで、ゲシュタポに捕えられた経験にもとづくことを知った。なるほど、そういう極限状態の表現かと思った。それ以来、この作品はいつも頭の隅にあった。でも、フォートリエの生涯を調べることもなく過ごしていた。

 今回のフォートリエ没後50年の回顧展は、千載一遇のチャンスだった。今まで知らなかったフォートリエの生涯をたどることができた。

 今その作風の変遷を説明しても、まだるっこしくて、要領を得ないと思う。なので、感じたことだけを書くと、フォートリエは生涯のなかで、輝く時期が何度かあったと、そんな気がした。あるとき、突如として輝くのだ。

 もっとも顕著な例が、上述の「人質」だ。「人質」は連作のなかの1点。本展では大原美術館のこの作品をふくめて、絵画10点と彫刻2点が展示されている。なかでも、大原美術館の作品は傑出している。緊張感と、そして透明感。深い悲しみにもかかわらず、透明感を感じる。美しいと感じる。そんな自分にうろたえる。

 第二次世界大戦が終わってからも、同じ技法の制作が続く。今度は静物だ。でも、気の抜けたような、緊張感のない作品に感じられた。これで終わるのかと思うと、生涯の最後に「雨」(1959年)のような瑞々しい作品が生まれる。この作品も大原美術館の収蔵だ。もっとも、残念ながら、大原美術館のホームページには「雨」も「人質」も画像が登録されていないので、ご紹介できないが。

 その代わりといってはなんだが、「人質」の類似作品の「人質の頭部」(国立国際美術館)と、「雨」の類似作品の「黒の青」(個人蔵)が本展のホームページに載っているので、ご参考までにリンクを張っておく(※)。どちらの場合も負けず劣らずインパクトの強い作品だ。
(2014.7.4.東京ステーションギャラリー)

(※)↓本展のホームページ
http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201405_JEAN_FAUTRIER.html
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