Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

メッツマッハー/新日本フィル

2014年07月19日 | 音楽
 メッツマッハー指揮の新日本フィル。ツィンマーマンとベートーヴェンを組み合わせる発想がすごい。

 1曲目はベートーヴェンの「プロメテウスの創造物」序曲。最初の音がガツンと鳴る。あぁ、メッツマッハーだなと思う。その後も骨太の音で進む。料理でいえば前菜どころではない。主菜に準じたもの。気合の入った演奏だ。

 2曲目はツィンマーマン最後の作品「わたしは改めて、太陽の下に行われる虐げのすべてを見た」。ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」のなかの大審問官の場面を音楽にした曲だ。古今東西いったいだれが大審問官の場面を音楽にしようと考えただろうか。しかもこの場面は人間の自由を否定する‘悪’の存在という意味でツィンマーマンのオペラ「軍人たち」とも通底するテーマだ。

 さらに、驚くべきことに、ツィンマーマンは旧約聖書の「伝道の書」と組み合わせた。神を否定する大審問官と旧約聖書との組み合わせ!「伝道の書」には虚無的な側面があるとはいえ、それにしても、旧約聖書と組み合わせるとは‥。

 表題は「伝道の書」の一節。あぁ、あれかと思い当たる人もいるだろう。ブラームスの最晩年の作品「4つの厳粛な歌」の第2曲と同じ部分だ。ツィンマーマンはブラームスを意識しただろうか。むろん意識しただろう。でも、どう意識したのか‥。この点についてはプログラム・ノーツに触れられていないのでわからない。どういうわけか、CD(ホリガー指揮ケルンWDR響)のライナー・ノーツにも触れられていない。

 そのCDだが、これは新国立劇場の「軍人たち」を観た直後に購入した。あのオペラに衝撃を受けたわたしは、他の作品も聴いてみたくなった。CDを2枚購入した。1枚はこれ。もう1枚は「若い詩人のためのレクイエム」だった。「レクイエム」のほうは昨年フランクフルトで聴くことができた。そして今回は「わたしは改めて‥」。

 演奏はCDよりも上だった。指揮者の力量のちがいだ。メッツマッハーのほうが音の統制力が上だ。くわえて、多田羅迪夫の大審問官の語りがすばらしかった。冷たくニヒルな語りだった。ローマン・トレーケルの独唱もよかった。

 3曲目はベートーヴェンの交響曲第5番「運命」。1曲目と同様、これも骨太の音で豪快に進む。しかもすべての音が統御されている。統御された上で、音楽の肺腑をえぐるような意気込みがあった。
(2014.7.19.すみだトリフォニーホール)
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