Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

永遠の一瞬

2014年07月09日 | 演劇
 新国立劇場の「永遠の一瞬 ‐TIME STANDS STILL‐」。ドナルド・マーグリーズというアメリカの劇作家の芝居。2009年にロサンジェルスで初演され、2010年にはニューヨークのブロードウェイでも上演された。今が旬の芝居だ。

 主人公は戦場カメラマンのサラという女性。サラがイラク戦争を取材中に路上爆弾で負傷し、ニューヨークのアパートに戻ってくるところから話が始まる。パートナーのジェームズは結婚を望むが、サラは仕事を捨てられない。そこにもう一組のカップル、中年男の編集者リチャードと年若い(親子ほども離れた)恋人マンディが絡む。結婚とは‥、仕事とは‥、幸せとは‥。

 4人それぞれの人生の選択の物語。その道筋が予定調和的に収斂しない点がいい。ホームドラマにはならないのだ。ニューヨークから遠く離れたイラクでの戦闘が影を落とし、どういう人生を選択するかを問いかける。

 2年前に上演された「負傷者16人 ‐SIXTEEN WOUNDED‐」も似ていた。あれはイスラム過激派のテロリストの物語。その日常(我々と変わらない日常)が丁寧に描かれていた。今度はイラク戦争。日本にいると遠い出来事のように感じられて、切迫感が希薄になりがちだが、この芝居では生々しい現実感をもっている。

 でも、あえていうなら、日本の今の現実を反映して、ホームドラマ的な要素もあったような気がする。今の日本の身の丈だろうか。ロサンジェルスやニューヨークでの上演はどうだったのだろう。

 サラを演じた中越典子は、突っ張った(世の中に妥協しない)ヒロインを頑張って造形していた。パートナーのジェームズを演じた瀬川亮は、サラほどは強くなれない人物を繊細に表現していた。さて、2人はどういう人生を選択するのか‥。

 一方、中年男リチャードはすでに人生を選択した人だ。それを演じる大河内浩は、若くて不安定な他の3人にたいして、錘のような重心の役割を果たした。その恋人マンディは今の日本にもいそうな‘天然’のキャラクター。森田彩華が好演した。

 演出は宮田慶子。いつもながら肌理の細かい演出だ。心理の襞が何層にも織られている。どの作品でも一定の品質を保証する手腕はたいしたものだ。翻訳は常田景子。わかりやすい翻訳だった。聞き取りにくい言葉はほとんどなかった。上田好生の音響が気に入った。繊細な効果音だった。
(2014.7.8.新国立劇場小劇場)
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