Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

運命の力

2015年04月15日 | 音楽
 新国立劇場の「運命の力」。例の序曲が始まる。快適なテンポ、濁りのない音、繊細な呼吸感。けっして力まない演奏だ。指揮はホセ・ルイス・ゴメスという未知の指揮者。新国立劇場のホームページによると、「ベネズエラ生まれのスペイン人」とある。ベネズエラというと、グスターボ・ドゥダメルを思い出すが――。ともかくこの指揮者、要注目だ。

 声楽陣もハイレベルだった。レオノーラのイアーノ・タマー、ドン・アルヴァーロのゾラン・トドロヴィッチ、ドン・カルロのマルコ・ディ・フェリーチェ、これらの3人の歌手は世界の主要歌劇場のレベルだった。

 今回の目玉と思われるプレツィオジッラのケテワン・ケモクリーゼは、十分期待に応える出来だった。存在感のある声、歌い回し、演技。一言でいって、舞台での華がある。上記のホームページを見ると、2014年1月の「カルメン」に出演したそうだ。これには慌てた。その「カルメン」なら観ている。だが、まったく記憶がない――。

 帰宅後、当日の日記(というよりも、数行のメモだが)を見ると、「スターの要素がある」と書いてあった。評価はしていたようだ。だが、忘れていた。それは多分、演出に不満があったからだ。煮え切らない、焦点のぼけた演出だった。

 一方、今回の「運命の力」は、輪郭のはっきりした演出だ。2006年3月のプレミエも観ているので、2度目だが、新鮮な気持ちで観ることができた。エミリオ・サージのこの演出、無駄なことは一切せず、人物像をくっきり浮き彫りにした、シンプルかつスレートな演出だ。赤が基調の舞台美術も見応えがある。

 「運命の力」は、骨格の大きさで、「ドン・カルロ」と双璧をなすオペラだ。姉妹作ともいえる。だが、不思議なことに、「ドン・カルロ」程の上演機会はない。どちらも、実力のある歌手を多数揃えなければならない点で、上演の困難さは似たようなものだろうが。

 今回、久しぶりに「運命の力」を観ているうちに、「ドン・カルロ」のいつも気になっている箇所を思い出した。先代のカルロ五世の霊が現われて、窮地に陥ったドン・カルロを救うという、あの幕切れだ。それをどう解釈すればいいのか。

 それに比べると「運命の力」は、そういう奇妙な点がない分、観やすいかもしれない。また、戦争に明け暮れる社会の底辺で飢えに苦しむ人々が、意外にきちんと描かれている。それが発見だった。
(2015.4.14.新国立劇場)
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