Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

オレステイア(バーゼル歌劇場)

2017年05月12日 | 音楽
 クセナキス(1922‐2001)の「オレステイア」は、ギリシャ悲劇の同名作を現代に復活させる試みだと思う。ギリシャ悲劇はコロス(合唱隊)の歌と数人の役者(1~3人の役者が何役かを演じ分ける)の組み合わせだったと考えられているが、では、そのときコロスが歌った歌は、どんな歌だったのだろうか。それをクセナキスなりに想像したのが本作だと思う。

 本作は2011年にサントリーのサマーフェスティヴァルで上演されたので、ご覧になった方も多いだろう。わたしも観た。ラ・フラ・デルス・バウスの鮮烈な演出と松下敬の見事な特殊唱法が強く印象に残った一方、合唱と器楽合奏はよく分からなかった、というのが正直なところだ。

 今回のバーゼル歌劇場の上演は、その合唱と器楽合奏が高水準で、わたしは初めてそれらがどんな音楽なのか分かった。合唱は、正確に音をとると、明確なスタイルがあり、西洋音楽が発生する以前の、今の感覚ではエスニックな香りがした。また器楽合奏は合唱に必要最小限のアクセントを付けるもので、非常にストイックに書かれていた。

 ついでながら(サマーフェスティヴァルでは松下敬が歌った)ファルセットの高音とバリトンの低音がめまぐるしく交代するカッサンドラの独唱では、バックに打楽器ソロが入るが、今回はそのソロも控えめで、しかも明快なリズムを独唱に添えていた。これがクセナキスの書いたソロ・パートだったのかと納得する想いだった。

 指揮はフランク・オルFranck Ollu。主に現代作品でその名を見かける人だ。中堅どころの指揮者だと思うが、シャープな音感を持った優秀な指揮者だと思う。

 これはバーゼル歌劇場のオペラ部門と演劇部門の共同制作。演劇がベースとなり、そこにクセナキスの音楽が入ってくる。その点でもギリシャ悲劇の上演形態を意識した公演だったと思う。クセナキスの音楽だけなら演奏時間は75分程度だが、今回は演劇部分を含めて95分程度を要した。

 演出はカリスト・ビエイト。ビエイト特有の過激なセックス描写は、今回はむしろ大人しいほうだ。ストレートで、かつテンションの高い語り口が印象的だった。

 アイスキュロスの原作では、最後に女神アテーナーが現れて、憎悪の連鎖が断ち切られるが、ビエイトの演出では、人々はアテーナーに従わず、憎悪の連鎖は限りなく続く。アテーナーは呆然としてへたり込む。
(2017.5.3.バーゼル歌劇場)
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