Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラザレフ/日本フィル「カヴァレリア・ルスティカーナ」

2019年05月18日 | 音楽
 ラザレフが「カヴァレリア・ルスティカーナ」を振るなんて、夢にも思わなかった。ラザレフほどの大指揮者なら、振れて当然だし、「カヴァレリア‥」にかぎらずイタリア・オペラのレパートリーも広いだろうが、それにしても(少なくとも東京定期では)禁欲的なまでにロシア音楽に集中してきたので、まさか「カヴァレリア‥」がプログラムに載るとは思ってもいなかった。

 前プロにメトネル(1879‐1951)のピアノ協奏曲第2番が組まれた(ピアノ独奏はエフゲニー・スドビン)。メトネルは「ラフマニノフの歳下の友人」(山野雄大氏のプログラム・ノート)。たしかにラフマニノフのように聴こえる。演奏時間約38分(プログラムの表記による)の長大な曲だ。正直なところ、最終楽章(第3楽章)では、わたしは集中力がもたなかった。

 アンコールが弾かれた。音符の数が多いメトネルとは対照的に、音符の数が少ないシンプルな曲。その最小限の音が緩やかにつながって豊かな起伏を描く。スカルラッティのソナタ ロ短調K.197だった。

 プログラム後半は「カヴァレリア・ルスティカーナ」。前奏曲が終わって導入の合唱が始まる。合唱は日本フィルハーモニー協会合唱団。全員暗譜だ。まずまずの出来にホッとした(じつは事前の不安要素だった)。

 サントゥッツァ(清水華澄)とルチア(石井藍)との対話。清水華澄の実力は十分承知しているが、石井藍は初めて。しっかりした歌唱だ。アルフィオ(上江隼人)の登場の歌。オーケストラとの呼吸がしっくりしない。再度壮麗な合唱。サントゥッツァのアリア「ママも知る通り」。滑らかな歌唱と感情表現がさすがだ。トゥリッドゥ(ニコライ・イェロヒン)の登場。すごい声だ。ラザレフの推薦だけある。ローラ(富岡明子)もまずまず。

 という具合にオペラの世界が展開した。日本フィルの演奏は、ピッチが合い、焦点の合った名演。ラザレフらしく、よく歌っていた。

 ラザレフの指揮は、全体をしっかり構築したものだった。前述のとおり、よく歌うし、感情表現も十分だが、それが全体の構成感の中に納まり、そこからはみ出さないというか、構成感を損なわない。結果、きわめて正統的で、格調の高い演奏が生まれた。それはラザレフのショスタコーヴィチ演奏と共通するように感じられた。ショスタコーヴィチの場合も、痛切な表現と全体の構成感とが矛盾しないが、それと似た原理を感じた。一方、音色は、ショスタコーヴィチの暗い音色と、今回の明るい音色とは対照的だった。
(2019.5.17.サントリーホール)
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