Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ネーメ・ヤルヴィ/N響

2019年05月19日 | 音楽
 ネーメ・ヤルヴィ指揮N響のCプロ。1曲目はシベリウスの「アンダンテ・フェスティーヴォ」。音響的にも内面的にも充実した演奏だったと思うが、それ以上の感慨は沸いてこない。そもそもこの曲は小細工のしようがないので、内面的に充実していればそれでよいということだろう。

 2曲目はトゥビン(1905‐1982)の交響曲第5番(1946年)。全3楽章からなり、演奏時間は約30分。第1楽章の冒頭は弦楽器の切迫した音型で始まる。後述するが、この作品が書かれた頃のトゥビンの危機的な状況を、そこに重ねて聴かざるを得ない。第1楽章の最後は2台のティンパニの掛け合いで終わる。それはニールセンの交響曲第4番「不滅」や第5番を連想させる。

 緩徐楽章(第2楽章)をはさんで、第3楽章は第1楽章を彷彿とさせる緊迫感のある音楽が続くが、突然の総休止の後、テンポを落とした抑制的な音楽になり、そこに(第1楽章の最後と同じように)2台のティンパニが執拗なリズム・パターンを打ちこみ、圧倒的なクライマックスに至る。

 全体的にリズムの明快さが顕著だ。シンフォニックな鳴り方はネーメ・ヤルヴィ好みかもしれない。だが、それだけではなく、同国人(エストニア人)ということで、ネーメ・ヤルヴィはトゥビンの作品の普及に使命感をもっているそうだ。すでに録音では全10曲の交響曲全集を完成させている。

 トゥビンはエストニア人だが、「第2次世界大戦中の1944年、隣国ソビエトがエストニアを占領。それに激しく抵抗したトゥビンはただちにスウェーデンへ渡り、同地で創作活動を続けながら77歳の生涯を閉じた。」(神部智氏のプログラム・ノーツ)。1937年生まれのネーメ・ヤルヴィも、旧ソ連時代にアメリカに居を移したので、トゥビンの生涯は他人事ではないのかもしれない。

 3曲目はブラームスの交響曲第4番。第1楽章冒頭で弦楽器が下行・上行を繰り返す音型が、なんの思い入れもなく繰り返され、一方、バックの木管楽器の装飾的な細かい動きが前面に出る。主客逆転したようなバランス感覚だ。第2楽章も思い入れがない。第3楽章はトライアングルが極小の音で、3階席のわたしにはほとんど聴こえなかった。第4楽章ではフルート・ソロが(演奏自体は見事だったが)突出せずに、あっさり先に進んだ。

 一風変わった演奏で、肩透かしを食った思いがした。それとともにネーメ・ヤルヴィにあまり生気が感じられなかったことが気になる。
(2019.5.18.NHKホール)
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