Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

サーリアホ「Only the Sound Remains ‐余韻‐」

2021年06月07日 | 音楽
 カイヤ・サーリアホ(1952‐)のオペラ「Only the Sound Remains ‐余韻‐」が日本初演された。世界初演は2016年にアムステルダムで行われた。今回のプロダクションはそれとは別の新制作だ。現代の創作の息吹にふれる思いがすると同時に、このようなオペラが(後述するが、本作は能を原作にしている)日本でも創作される可能性を感じた。集客などの問題はあるにせよ、だが。

 原作となった能は「経正」(つねまさ)と「羽衣」だ。本作は2本のオペラのダブルビルだ。各オペラは45分程度なので、上演時間は休憩を入れて2時間程度。これなら上演しやすいだろう。手慣れたプロの仕事という感じがする。

 2本立ての場合、2本のオペラの対比をどうつけるかが興味の的だ。わたしは事前に原作を読み、わたしなりに想像していたが、それとは異なる点がいくつかあった。わたしが想像していたことは、今となっては無意味なので省略し、本作が2本のオペラをどう対比したかを述べると、「経正」は静謐な音楽が続き、そこに濃密な情念がこもる。わたしが「遥かなる愛」(2000)を通じて抱いているサーリアホのイメージに近い。一方「羽衣」は、天女と漁師との対話が(日本を超えて)西欧的な議論のようであり、また幕切れが喜びにみちたダンスの音楽になるなど、一般的なオペラの作劇術を感じさせる作品になっている。

 おもしろかったのだが、あえていえば、「遥かなる愛」のような今までだれも描いたことのない(人間感情の)領域を描いた作品ではないように感じた。

 歌手は、シテ(「経正」の表題役、「羽衣」の天女)がカウンターテナーのミハウ・スワヴェツキ、ワキ(「経正」の行慶、「羽衣」の漁師・白龍)がバス・バリトンのブライアン・マリー。どちらも未知の歌手だったが、しっかり歌っていた。ほかにソプラノ、アルト、テノール、バス各1名のコーラスが入る(地謡のイメージだろう)。新国立劇場合唱団のメンバーが歌った。

 本作は室内オペラだ。オーケストラは弦楽四重奏と(フィンランドの民族楽器の)カンテレ、フルート(ピッコロからバスフルートまで持ち替え)そして打楽器の編成。個々の奏者の名前は省くが、繊細で見事な演奏だった。指揮はクレマン・マオ・タカス。未知の指揮者だったが、ひじょうに優秀な人ではないかと思った。今後注目だ。

 演出はアレクシ・バリエール。サーリアホの実子らしい。その演出が良かったのかどうか、決め手に欠ける。森山開次のダンスが入ったが、あまり邪魔には感じなかった。
(2021.6.6.東京文化会館)
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