Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ヴァイグレ/読響

2021年06月30日 | 音楽
 フランツ・シュミット(1874‐1939)に焦点を当てたセバスティアン・ヴァイグレ指揮読響の定期。チラシには「次はシュミットを照らせ!」という文言が踊る。何の次か? それは書いてないが、以前やったハンス・ロット(1858‐84)の次ではないかと想像する。

 1曲目はグルック(1714‐87)の歌劇「オーリードのイフィジェニー」序曲のワーグナー編曲版。今でこそ原典版で演奏されるが、一昔前はワーグナーの編曲版が一般的だった。クレンペラーとかフルトヴェングラーとか、往年の巨匠の重々しい演奏で聴いたものだ。

 ヴァイグレ指揮読響の演奏は、出だしは重厚な響きがしたが、テンポの速い部分に入ると、往年の巨匠とは一味ちがって、快速テンポで進む。それが全体を引き締め、現代感覚の演奏になった。弦楽器は14型だった(2曲目以降も14型だった)。その弦楽器がよく鳴った。

 2曲目はフランツ・シュミットの歌劇「ノートル・ダム」から間奏曲と謝肉祭の音楽。この間奏曲は懐かしい。一時期カラヤンの指揮でよく聴かれた。わたしもそうだが、多くの人はこの曲でフランツ・シュミットという名前を知ったのではないか。その後しばらくしてから、若き日のメータが指揮する交響曲第4番が聴かれるようになった。

 「間奏曲と謝肉祭の音楽」は3部からなり、第2部が間奏曲だ。前後は謝肉祭の音楽だが、第1部よりも第3部のほうが豊かに発展する。わたしは謝肉祭の音楽を聴くのは初めてなので、おもしろく聴いたが、なんといっても間奏曲が感銘深かった。上記のとおり14型の弦楽器が張りのある音でよく鳴った。サントリーホールに鳴り響いた、というのが実感だ。ヴァイグレの指揮は自信に満ち、積極的で、スケールが大きかった。この曲にかぎらず、当夜のヴァイグレは気力も体力も絶好調のように見えた。

 3曲目は交響曲第4番。フランツ・シュミットの代表作のひとつだ。CDはもちろん、実演でも何度か聴いたが、それらのすべてと比べても、この演奏は確固たる解釈と共感の深さで優れていた。冒頭でふれたハンス・ロットの交響曲第1番のときも、揺るぎない解釈と共感の深さで感銘を受けたが、今回もそれと似た感銘を覚えた。

 全4部からなる曲だが、とくに第2部アダージョが、この曲が書かれたきっかけとされる娘エンマの逝去を超えて、ある時代の終わりへの哀歌のように聴こえた。作曲時期は1932~33年なので、ヒトラーが政権を取る時期と重なる。フランツ・シュミットが住むウィーンも緊張していたことだろう。フランツ・シュミットはこの曲を書いた後、新約聖書の「ヨハネの黙示録」をテキストにオラトリオ「七つの封印の書」を書いた。なんたる題材だろう。その心情は想像に余りある。
(2021.6.29.サントリーホール)
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