Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

広上淳一/日本フィル

2021年06月12日 | 音楽
 広上淳一が指揮する日本フィルの6月の定期は、ドヴォルジャークのヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン独奏は小林美樹)とブルックナーの交響曲第6番という(派手さはないが)充実したプログラムだった。

 多くの方がSNSで発信しているが、広上淳一と小林美樹は今年3月の東京シティ・フィルの「ティアラこうとう定期」でドヴォルジャークのこの曲を協演した。わたしも行こうと思っていたが、チケットが完売だった。その演奏はたいへん好評だったので、今回も期待した。

 小林美樹の演奏は、一言でいって、熱量の高いものだった。演奏時間30分超の大曲だが、熱量の高さは一貫していた。今年3月の演奏が好評だったのも頷けた。一方、日本フィルの演奏は、第1楽章の出だしが硬かったが、徐々にアンサンブルがこなれて、第3楽章では小林美樹の独奏ヴァイオリン共々スリリングな演奏を展開した。

 小林美樹のアンコールがあった。曲目はバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番からのラルゴ。ドヴォルジャークの熱気をクールダウンするような澄みきった音だった。小林美樹は、演奏スタイルも音も、多様な抽斗をもっている演奏家のようだ。

 ブルックナーの交響曲第6番は名演だった。名演という一言では語りつくせない面のある演奏だった。まず目についたのは弦楽器の編成だ。第1ヴァイオリン10名、第2ヴァイオリン8名、ヴィオラ6名、チェロ6名、コントラバス5名という小編成で、これはドヴォルジャークの前曲と同じだった。そこに広上淳一の意思を感じた。ブルックナーは分厚い弦に支えられたサウンドが一般的だが(少なくともコロナ以前は)、ブルックナーの時代のサウンドはどうだったのだろうと、わたしは思った。

 第1楽章の冒頭は、弦の付点リズムが繊細に刻まれ、そこに金管の明るい音色が鳴った。木管の思いがけない動きが浮き上がることもあった。結尾では“ため”がつけられたが、ティンパニがずれたようだ。第2楽章の冒頭は弦のハーモニーが美しかった。その鳴り方に不足はなかった。第3楽章は充実の極みだった。ホールがよく鳴った。トリオのホルンもしっかりしていた。第4楽章はそれらのすべての要素が集約され、堂々たる演奏だった。

 全体を通して集中力が途切れなかった。滑らかな流れが基調にあり、細かいアクセントが音楽を前に進めた。要所々々で打ち込まれる鋭角的な響きも見事だった。わたしは日本フィルの古い定期会員なので、広上淳一のやんちゃ坊主のような正指揮者時代から聴いているが、いまやすっかりマエストロの風格を身につけた姿が感慨深かった。
(2021.6.11.サントリーホール)
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