Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

「コロナ禍の一年」のオーケストラ

2021年06月27日 | 音楽
 昨年2月に突如演奏活動の休止を余儀なくされた各オーケストラは、同年6~7月から徐々に演奏活動を再開した。それから一年。N響は今年6月の演奏会のプログラム冊子に西川彰一演奏制作部長の「2020‐21シーズンを振り返って」というコラムを掲載した。

 そこでは「振り返ればこの1年は、刻々と変わる状況に合わせながら、感染症対策と代替公演の企画締め切りに追われる毎日でした」と述べている。実感のこもった述懐だ。そして「予期せぬ収穫」として「若手音楽家との共演の場を多数持てたこと」と「小編成の作品を演奏することが、アンサンブルを見つめ直すきっかけになった」ことをあげている。

 それらの2点は他のオーケストラも同様だろう。今後コロナ禍が(いつ、どんな形であれ)収束して、演奏活動が復旧したとき(たとえ元通りにはならないにしても)、この1年間で蒔いたそれらの種が実を結ぶことを期待したい。

 日本フィルも6月の演奏会のプログラム冊子に平井俊邦理事長の「「コロナ禍の一年」を支えてくださった皆様に、心より御礼申し上げます」と題する一文を掲載した。そこでは、国、自治体、民間財団および金融機関から受けた支援への感謝を述べている。

 そのうえで、こう書いている、「何より大きな力となりましたのが、全国の皆様から頂戴したご寄付です。その額は一億円を超えるものとなり、「何としても存続してほしい」という強いメッセージとともに日本フィルを力強く支えてくださいました。涙が出るほどにありがたく、改めて衷心より御礼申し上げます」と。その言葉には並々ならぬ実感がこもっていると感じる。

 聴衆の立場からいうと、この1年でいくつかの変化が生まれた。まずオーケストラの入場時に拍手が起こるようになった。オーケストラも全員が揃うまで立ったままで拍手を受けるようになった(読響は例外だが)。また演奏会の終了時には、指揮者のソロ・カーテンコールが頻繁に起きるようになった。それは外人指揮者にかぎらず日本人指揮者にたいしても、だ。聴衆とオーケストラおよび指揮者との結びつきが強くなっているように感じる。

 またどのオーケストラもオンライン配信を行うようになった。オンライン配信は、遠隔地の人々、高齢者、障害をもつ人々にはとくに有効なので、今後どう発展するか。わたしとしては、当日行けなかった定期会員へのアーカイブの提供があるとありがたいが。

 最近、ある音楽ライターが「シニア層の聴衆が戻ってきた」と書いた。だが、わたしの周囲を見ると、まだ楽観できない。結局戻らない人もいるだろうし、戻るにしても、回数を減らす人もいると思う。オーケストラは「選ばれるオーケストラ」にならなければならない。
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