Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

チェネレントラ

2021年10月04日 | 音楽
 新国立劇場の「チェネレントラ」新制作。粟国淳演出、アレッサンドロ・チャンマルーギの美術・衣装による舞台は、王子ドン・ラミーロを映画のプロデューサー、王子の教育係アリドーロを映画監督に見立てた。チェネレントラ(アンジェリーナ)は女優になるのを夢見る娘。チェネレントラの義姉のクロリンダとティーズペはプロデューサー(ドン・ラミーロ)に見いだされて主役を射止めようとする。クロリンダとティーズペの父親(チェネレントラの義父)のドン・マニフィコは、クロリンダかティーズペが主役に抜擢されることを願う。言い遅れたが、王子の従者ダンディーニはプロデューサーの助手だ。場所はローマの映画撮影所。

 舞台ではひっきりなしに撮影カメラが移動し、収音マイクがそれを追いかける。何人かの撮影助手が、台本を持ちながら、あれこれと手はずを整える。まさに撮影現場だ。ドン・ラミーロとアンジェリーナの出会いの場面は映画「ラ・ラ・ランド」の引用らしい(わたしはその映画を見たことがないが、ポスターなどでよく見かけた場面だ)。その他にも「ああ、これはなにかの映画の引用だろうな」と思う場面があった。

 一応うまくはできているのだが、いまひとつ垢抜けない。よくできた読み替えという以上の感想がわかない。なにが足りないのか。乾いた笑いか。弾けるような演劇性か。

 歌手ではタイトルロールの脇園彩(わきぞの・あや)とドン・ラミーロ役のルネ・バルベラが突出していた。脇園彩はイタリアで活動しているらしい。どの音域も滑らかに出て、ベルカント唱法が高度だ。ルネ・バルベラはアメリカ出身だが、ヨーロッパ各地で活動しているらしい。突き抜けるようなハイトーンが出る。第2幕のアリアでは、鳴りやまない拍手にこたえて、カバレッタをアンコールした。

 ベテラン歌手のアレッサンドロ・コルベッリがドン・マニフィコを歌った。レジェンドといってもいい歌手だが、さすがに年齢は隠せない。ダンディーニは上江隼人が歌った。これは健闘。クロリンダは高橋薫子、ティーズペは齊藤純子が歌った。歌はともかく、演技は物足りない。コミカルな「いじられ役」は、日本人はほんとうに下手だ(齊藤純子はフランス在住らしいが)。アリドーロはガブリエーレ・サゴーナが歌ったが、印象に残らなかった。

 指揮は来日中止になったマウリツィオ・ベニーニの代わりに城谷正博がとった。第1幕の中盤まではおとなしい演奏が続いたが、その後しっかりしてきた。第1幕のフィナーレから第2幕にかけては不足がなかった。平均点は取ったが、それ以上のものではなかったというのが正直なところだ。オーケストラは東京フィル。これは健闘した。ベルカント・オペラのオーケストラの音だった。
(2021.10.3.新国立劇場)
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