Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

鈴木優人/読響

2021年10月30日 | 音楽
 鈴木優人が読響定期へ2度目の登場をした。プログラムは前回(2020年11月)に引き続き、現代曲の小品、シューベルトの音楽を素材にした現代曲そしてシューベルトの交響曲という構成。一回かぎりで終わらせずに、もう一度同じコンセプトを試みる点が興味深い。

 1曲目は現代ドイツの作曲家アリベルト・ライマン(1936‐)の「シューベルトのメヌエットによるメタモルフォーゼン」。シューベルトのピアノ曲「メヌエット嬰ハ短調D600」を素材にした室内アンサンブルのための小品だ。シューベルトの原曲が出てくる部分は、いかにもシューベルトらしい情感を湛えるが、それに続くライマンの作曲部分は硬派の現代音楽だ。演奏時間は約8分の短い曲。フッと唐突に終わる。

 演奏は各パートの動きがクリアーに出て、迷子にならずに、見通しがよいものだった。読響の首席奏者たちのレベルの高さのおかげだが、加えて鈴木優人の豊かな音楽性のためでもある。鈴木優人は古楽出身の音楽家だが、現代物にもすぐれた適性を発揮する。

 2曲目は現代イギリスの作曲家トーマス・アデス(1971‐)の「イン・セブン・デイズ」。神による世界創造の7日間の物語(旧約聖書の「創世記」による)を描いた作品だ。ピアノ独奏と大編成のオーケストラのための作品。演奏時間は約30分の大作だ。

 わたしはアデスの作品が好きなのだが、この曲には戸惑った。アデス特有の精緻さと無駄のなさが感じられず、全体の構成がつかみにくかった。澤谷夏樹氏のプログラム・ノーツによると、この曲は「ピアノ、管弦楽と映像のための」曲だそうだ。映像というのがミソだろう。どんな映像かはわからないが、ともかくなんらかの映像があり、そこにつけられた音楽だ。そのような音楽の場合、構成が映像に引っ張られたり、密度が薄くなったりするきらいはないだろうか。映像とともに聴くなら問題ないだろうが。

 ピアノ独奏はジャン・チャクムル。1997年トルコ生まれで、2018年の浜松国際ピアノコンクールの優勝者だ。当初の予定はヴィキングル・オラフソンだったが、来日中止になり、ピンチヒッターに立った。通常のレパートリーではないので、おそらく急な準備だったのだろうが、立派に代役を果たした。アンコールに鈴木優人との連弾で(!)ブラームスのワルツ集から何曲かを弾いた。これは楽しかった。

 3曲目はシューベルトの交響曲第8番「グレイト」。熱のこもった力演だった。思わぬ声部が浮き上がったり、ティンパニが強打したりする演奏だ。長大なこの曲を、一瞬たりとも弛緩させずに、一気に聴かせた。だが、もう少し息が抜ける部分があってもよかったのではないか。緊張のしっぱなしの感があった。
(2021.10.29.サントリーホール)
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