Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

北村朋幹ピアノ演奏会

2017年03月29日 | 音楽
 東京・春・音楽祭のミュージアム・コンサート「東博でバッハ」の第34回、北村朋幹(きたむら・ともき)のピアノ演奏会に行った。

 1曲目はシューマンの「4つのフーガ」。珍しい曲だ。シューマンのバッハ研究の過程で生まれた曲。最初はバッハそのもののようだが、最後になるとシューマンの素顔が覗く。そのへんがシューマンらしいところだ。

 2曲目は細川俊夫の「エチュードⅠ」から「2つの線」。ガラス細工のような音が煌き、砕けて散る、といった感じの曲。わたしにはこの曲が、最後のバッハの「パルティータ第6番」とともに、当夜の白眉だった。

 演奏は、切れ目なく、3曲目のバッハの「2声のインヴェンション」に入った。2声の音楽というのは、考えてみると、もっともシンプルな音楽なのだ(単旋律の音楽もあるにはあるが)と思いながら聴いた。

 休憩後、4曲目はバルトークの「戸外にて」から第4曲「夜の音楽」。この曲も(細川俊夫の前記の曲と同じように)次のバッハの「パルティータ第6番」への導入的な位置づけかと思ったが、普通に演奏が終わり、拍手も起きた。

 5曲目はその「パルティータ第6番」。大変な集中力で演奏された。圧巻の演奏。1曲目のシューマンからその集中力は感じられたが、この「パルティータ第6番」で見事に実を結んだ感がある。北村朋幹は演奏後、「胃に穴が開くような大変な曲で、演奏するほうもそうですが、お聴きになる皆さんも大変だったと思います」(要旨)と語ったが、まさに「胃に穴が開く」想いでこの曲に取り組んだ演奏だった。

 アンコールにメンデルスゾーンの「デュエット」が演奏された。‘バッハ’つながりでメンデルスゾーンになり、‘2声’つながりで「デュエット」になったのだろう。このようにプログラムにストーリー性を持たせる資質の持ち主のようだ。

 以前、北村朋幹の演奏は、2011年のラ・フォル・ジュルネで聴いたことがある。東日本大震災の発生からわずか2ヵ月後、大幅に規模の縮小を余儀なくされたラ・フォル・ジュルネに登場して、ベルク、シェーンベルク、ブラームス等を弾いた。当時は東京藝大に在学中だった。今はベルリン芸術大学に在学中。わたしの記憶は頼りないが、6年前のその時と今回とでは、肩の力がだいぶ抜けて、聴衆に演奏を楽しませる余地が広がってきたと思う。若いっていいものだ。
(2017.3.28.東京国立博物館平成館ラウンジ)

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