Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ドン・パスクワーレ

2019年11月10日 | 音楽
 新国立劇場の新制作「ドン・パスクワーレ」は、歌手の水準が高かった。中でもタイトルロールのロベルト・スカンディウッツィは、その声の深みと高貴さで圧倒的な存在感を持っていた。さすがは現代最高峰のバスの一人。ヴェルディ歌手として名を馳せた人がこの役を歌うと、これほどまでの存在感があるのかと思った。

 思えばこの役は、あまり目立ったアリアがなく、むしろ他の歌手とのアンサンブルが主体なので、声そのものに魅力がないと、印象が薄れがちだ。わたしの乏しい経験では、チューリヒ歌劇場の公演でのルッジェーロ・ライモンディのタイトルロールが、今でも鮮明に記憶に残っている(1999年1月、指揮はネッロ・サンティだった)。一方、ベルリン・ドイツ・オペラの公演では、だれが歌ったのか、記憶から消えている(2006年1月、指揮はイヴ・アベルで、その指揮はよかった記憶がある)。

 今回のスカンディウッツィは、わたしには、ライモンディと伍すものがあった。細かくいうと二人の役作りには多少の違いがあったと思うが(ライモンディには、年老いたとはいえ、もっと色気があったような気がする)、恬淡としたスカンディウッツィの役作りにも味があった。

 他の歌手では、エルネストを歌ったマキシム・ミロノフに惹かれた。高音がまっすぐ飛んでくる声に、さすがは「セビリアの理髪師」のアルマヴィーヴァ伯爵で評判をとった歌手だけあると思った。

 ノリーナ役の歌手は、当初予定されていた歌手がキャンセルして、ハスミック・トロシャンに代わったが、おそらく日本ではまだ無名の(それとも、わたしが知らないだけか)この歌手は、硬質な声で、切れがよく、技術的にも安定していて、鮮烈な日本デビューを果たした。また、マラテスタ役のビアジオ・ピッツーティも優れた歌手だった。狂言回しのこの役が、今回のようにしっかり歌われると、ドラマ全体の骨格がしっかりする。

 久しぶりに聴くこのオペラは、オペラ・ブッファではあるが、陰影に富んだニュアンス豊かなオペラだと、あらためて思った。エルネストがトランペット・ソロを伴って歌う悲しみのアリア、ノリーナがドン・パスクワーレに平手打ちを食わせた後の二人それぞれの苦い思い、ノリーナとエルネストの官能的な愛の二重唱など格別な音楽で、演奏もよかった。

 コッラード・ロヴァーリス指揮の東京フィルは、序曲こそ余裕のない演奏だったが、徐々に持ち直した。ステファノ・ヴィツィオーリの演出は、平明な、わかりやすい演出で、場所を厨房に設定した使用人たちの大騒ぎは楽しかった。
(2019.11.9.新国立劇場)

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