Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

原田慶太楼/N響

2024年06月10日 | 音楽
 原田慶太楼が振るN響のAプロ。プログラムはオール・スクリャービン・プロ。それだけでも凝っているが、加えて選曲が、スクリャービンが神智学に傾倒する前の曲ばかり。一捻りも二捻りもしたプログラムだ。

 1曲目は「夢想」。スクリャービンが書いた2作目のオーケストラ作品らしい(小室敬幸氏のプログラムノーツより。ちなみにオーケストラ作品の一作目は、2曲目に演奏されるピアノ協奏曲だ)。演奏時間約4分の短い曲だが、魅力的な曲だ。当時ショパンに倣ったピアノ曲を書いていたスクリャービンが、同じ音楽をオーケストラで書いた感がある。演奏も、たとえば弦楽器が大きく飛翔する部分など、N響の優秀さを感じさせた。

 2曲目はピアノ協奏曲。ピアノ独奏は反田恭平。会場が満席だったのは、反田人気か。キラキラ輝くような音色、あふれる情熱、夢見るような甘さ、それらが相俟ってスクリャービンのこの曲を余すところなく描きだした。原田慶太楼の指揮するN響もピアノと呼吸が合っていた。反田恭平のアンコールがあった。スクリャービンを予想したが、そうではなかった(ショパンのマズルカ第34番だった由)。

 3曲目は交響曲第2番。小室敬幸氏がプログラムノーツに書いたように「初期の集大成」だが、それが自然に(あるいは必然的に)生まれたというよりは、「集大成を書いてやろう」というスクリャービンの野心が先に立った作品だ。その野心を聴かせられている感がなくもない。それでも魅力ある作品だが。

 聴きどころは多数あるが、まず印象的なのは、シンコペーションで畳みかけるリズムだろう。だれが振ってもノリが良くなる部分だが、いかにも原田慶太楼の個性と合いそうな部分でもある。実際に切れの良い躍動感があった。原田慶太楼は前回のN響定期登場のときに(2022年1月)、ストラヴィンスキーの「火の鳥」(全曲)で目の覚めるような演奏を披露したが、それを彷彿とさせた。

 全5楽章で(詳述は控えるが)凝った構成のこの曲を、原田慶太楼は十分に把握して、彫りの深い演奏を展開した。N響の演奏力も見事だった。だが第5楽章の途中から一本調子になったように思う。スタミナ切れか。それとも他の要因があったのか。

 それはともかく、原田慶太楼はスター性のある指揮者だ。1985年東京生まれ。高校生のころからアメリカで暮らし、今も拠点はアメリカだ。地道にアメリカのオーケストラで経験を積んでいる。芸大や桐朋を出て有力な指揮者コンクールに優勝して……というコースから出てきた人ではない。異色のキャリアの指揮者に今後も注目だ。
(2024.6.9.NHKホール)

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