Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

マヌリ:オーケストラ・ポートレート

2024年08月24日 | 音楽
 サントリーホールサマーフェスティバル2024のテーマ作曲家はフィリップ・マヌリ(1952‐)だ。恒例のオーケストラポートレートは、マヌリが影響を受けた作品としてドビュッシーとブーレーズの作品が、またマヌリが将来を嘱望する作曲家としてヴェルネッリの作品が、そして(これも恒例だが)マヌリの新作が演奏された。演奏はブラッド・ラブマン指揮の東響。

 1曲目はドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」。リハーサルに十分な時間を割けなかったのか、演奏には余裕がなかった。ラブマンの指揮は明快だが、それはリハーサル不足を補うようだ。オーケストラはその指揮に慎重についていった。

 ところが2曲目のブーレーズの「ノタシオン」になると、水を得た魚のように、演奏に生気が生まれた。ブーレーズ特有の明るく上品な音色と眩いばかりのリズムの炸裂が現れた。東響の実力発揮だが、同時に指揮のラブマンの力量を感じた。

 3曲目はイタリア生まれの女性作曲家・フランチェスカ・ヴェルネッリ(1979‐)の「チューン・アンド・リチューンⅡ」。何かが蠢くような執拗なリズムの反復と、それにくさびを打ち込むような衝撃音が繰り返される。強迫観念か悪夢のようだ。オーケストラの鳴り方は鮮烈だ。

 4曲目はドビュッシーのピアノ4手連弾版「夢」をマヌリがオーケストレーションしたもの。東京オペラシティのコンポ―ジアム2019でも演奏された。そのときも感銘を受けたが、今回はヴェルネッリの前曲を聴いた後だったので、余計にその美しさが胸にしみた。

 5曲目はマヌリの新作「プレザンス」。クリアな輪郭の音像が立ち上がる。その展開の仕方は不定形で、予想のつかないところがある。未知の領域に踏み込むようだ。マヌリの電子音楽での経験の蓄積が反映しているのかもしれない。ラブマン指揮東響の演奏は、濁りのない透明な音を鳴らして見事だった。

 「プレザンス」ではオーケストラは扇状になって指揮者を囲む。最後には各々4人の2グループがオーケストラから去り、客席で演奏したのち、客席を出る。「プレザンス」は三部作の3曲目だ。1曲目の「予想」では各々5人の2グループが客席から演奏しながら近づき、オーケストラに加わるそうだ。三部作を通して聴くと、「プレザンス」の最後は「予想」に対応するのかもしれない。マヌリは細川俊夫との対談で「(引用者注:2世紀以上にわたるオーケストラのあり方とは)異なる方法でオーケストラを扱うことは充分に可能だと示したい」と語る。「プレザンス」はマヌリが立てたオーケストラ音楽への問いかもしれない。
(2024.08.23.サントリーホール)

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