Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

広上淳一/日本フィル

2020年07月12日 | 音楽
 各オーケストラが演奏会を再開(一部は予定)しているが、その方式には少しずつ違いがある。7月10日に定期演奏会を再開した日本フィルは、当初予定のプログラムのうちの1曲をカットして、休憩なしの約1時間とし(それは今では一般的だが)、指揮者の広上淳一も楽員もマスクなしで臨んだ。この方式は(少なくともわたしには)歓迎だ。マスクをつけたオーケストラは、やむを得ないこととはいえ、ゾッとするから。

 開場は開演の1時間前だった(これも今は一般的)。ロビーには上掲(↑)の「公演再開のお礼」が掲示されていた。他のオーケストラと同様に、2月下旬以降活動自粛を余儀なくされた日本フィルにとっては、(曲がりなりにも)活動再開にこぎつけたこの日は、待ちに待った日だったろう。

 ロビーにいると、ホールから楽員の音出しが聞こえる。「う~ん、いい音だ」と思った。いつもなら何も感じない音出しが、こんなに新鮮なのは、生音をまったく聞かない異常事態を経験したからだろう。その意味では、4か月あまりの異常事態は、人生で二度とない(とは言い切れないのが恐ろしいが)得難い経験だったのかもしれない。

 1曲目はバッハのブランデンブルク協奏曲第3番。編成はヴァイオリン3、ヴィオラ3、チェロ3、コントラバス1、チェンバロ1。ヴァイオリンとヴィオラは立奏。ヴィオラのトップに安達真理さんが入っている。さすがに大活躍だ。安達さんの参加が他のメンバーにあたえた影響もあったのではないか。第1楽章の出だしは硬かったが、第3楽章には躍動感があった。

 休憩なしに2曲目へ。曲目はブラームスの交響曲第1番。弦の編成は12‐10‐8‐6‐5の12型で、つまり通常編成だ。室内オーケストラ仕様でないのがいい。弦で2名マスクを使用している楽員がいたが、あとは(上記のように)マスクなしの普段の演奏風景。

 第1楽章の序奏では弦が薄く感じられたが、主部に入ると厚みが出て、音の帯のような弦のサウンドが生まれた。それはCDではけっして聴けないもの、生音でないと得られないもので、生音の情報量の多さに今更ながら驚嘆した。管楽器では杉原由希子さんのエスプレッシーヴォなオーボエが光った。その音が懐かしかった。

 第1楽章の展開部の終わりから再現部に入るところで、内燃的な高まりが生まれた。それがこの演奏の白眉だった。第2楽章と第3楽章は淡々と進んだが、第4楽章はテンポの変化にメリハリがあり、コーダで燃え上がった。だが、あえて正直にいえば、そのコーダではもう少し内燃的な要素がほしかった。
(2020.7.10.サントリーホール)

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