Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ケストナー没後50年(2):「動物会議」

2024年10月01日 | 読書
 ケストナーの「動物会議」は絵本だ。だが「飛ぶ教室」などの児童文学と同程度の内容がある。ケストナーの力作のひとつだ。絵は児童文学の第一作「エーミールと探偵たち」以来の盟友ヴァルター・トリアーが描いた。トリアーは「動物会議」刊行の2年後に亡くなった。「動物会議」がケストナーとの最後の仕事になった。

 「動物会議」は1949年に刊行された。まだ第二次世界大戦の傷跡が生々しいころだ。世界には難民があふれ、大量の孤児がいた。都市は荒廃していた。そんな時期なのに世界の首脳たちはまた戦争の準備をしている。その状況に憤ったケストナーが書いた作品が「動物会議」だ。

 どんな話か。世界の首脳たちがケープタウンで会議を開く。87回目だ。延々と会議をしている。結論は出ない。そんな状況に怒った動物の代表たちが動物ビルに集まる。代表たちは世界の首脳たちと対峙する。そして要求を突きつける。だが首脳たちは要求を拒否する。拒否することだけは一致する。他のことは一致しないのに。

 代表たちは実力行使に出る。だが人間のほうが利口だ。あっさり覆される。代表たちは弱気になる。でも諦めずに知恵を絞る。もう一度実力行使に出る。だがうまくいかない。代表たちは何をやってもダメかと思う。そのとき名案が浮かぶ。最後の実力行使に出る。今度は首脳たちも参ってしまう。首脳たちは要求をのむ。首脳たちは代表たちと条約を結ぶ。条約は次の5か条からなる(大意)。

 (1)地球上から国境をなくすこと。(2)もう戦争はしないこと。(3)人を殺すための研究はしないこと。(4)役所は縮小すること。(5)教員が一番高い給料をもらうこと(なぜなら教員は子どもを真の大人に育てるという大事な仕事をしているから)。

 以上が「動物会議」のプロットだ。繰り返すが、「動物会議」の刊行は1949年だ。75年前の作品だが、今の世界にも当てはまる。少しも古びていない。ということは、世界は75年前から変わっていないのだろうか。

 「動物会議」はプロットもおもしろいが、ディテールもおもしろい。たとえば代表たちが動物ビルにチェックインする場面。イルカの部屋は部屋全体に水を張ったプールだ。イルカは「水を40立方メートルもへらしてくれ」という。そのくらいのゆとりがないとジャンプできないからだ。キリンは上下2部屋を取ったが、「下の部屋のてんじょうに、大きな穴をあけてほしい」という。そうしないと首が伸ばせないからだ。ネズミは「部屋はいらないから、ネズミ穴がほしい」という。ケストナーは動物たちを一律に描かずに個性豊かに描く。それが「動物会議」に一貫する描き方だ。

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