Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

パゴダの王子

2011年11月07日 | 音楽
 去年の今ごろだったか、新国立劇場のバレエの予定にブリテンの「パゴダの王子」が入っているのを見て狂喜した。ブリテン好きのわたしには念願のバレエだ。CDでは聴いているものの、実際の舞台に接する機会はなかった。

 せっかくの機会なので、2回分のチケットを確保した。11月1日の長田佳世・芳賀望・川村真樹(順に、さくら姫・王子・皇后エピーヌ)の組と、6日の小野絢子・福岡雄大・湯川麻美子の組。2回観て、このバレエを堪能した。

 作曲家にとってはバレエの音楽はオペラよりも制約が多いにちがいないが、ブリテンは実用的な音楽を提供しつつも、ブリテンらしさを刻印し、新たな創意を盛り込んだ。

 ブリテンらしさでいえば、第2幕のさくら姫の異界への旅に出てくる泡の音楽は、「ピーター・グライムズ」でお馴染みの音型だ。一方、新たな創意は、いうまでもなく、異界に着いたときのガムラン音楽だ。ブリテンの挑戦が見事な成果をあげている。そのほか、第1幕の4人の王の踊りのうちの南の王の音楽が、金管の咆哮と打楽器の轟音から成り、ブリテンのほかの曲では聴けない音楽になっている。これはバレエ音楽という新たなフィールドに出たブリテンの遊びだろう。

 ビントレーの振付はCDの解説に書かれているストーリーとはちがっていた。CDの解説では「ばら姫」と王子の愛を中心に、高慢で意地の悪い姉の「いばら姫」が絡む筋立てだった。これは初演のときのクランコの振付によるのだろう。今回は「さくら姫」(舞台を日本に設定したので名前を変更)と王子が兄妹とされ、また「いばら姫」は継母の「皇后エピーヌ」とされた。全体としては家族の回復がテーマ。第2幕の終盤で子役を使って事の次第が描かれる箇所では、ストーリーテラーとしてのうまさが感じられた。

 ダンサーで一番注目したのは、皇后エピーヌを踊った川村真樹だ。伸びやかな美しさは群を抜いていた。あまりにも美しいので、同役の憎々しさが感じられないほどだった。コミカルな振付の4人の王のなかでは、6日の西の王のトレウバエフが堂に入っていた。狂言回し的な「道化」は全日通して吉本泰久。どちらかというと、6日のほうが自由闊達だった。

 装置・衣装はレイ・スミス。日本の着物をコスチュームにするという挑戦に成功していたが、そのなかに交じると王子の衣装が中国的に見えた。もちろん日本人のスタッフが付いているので、十分な考証をしたのだろうが。
(2011.11.1&6.新国立劇場)

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