Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

旅日記:オーウェン・ウィングレイヴ

2010年02月16日 | 音楽
 ベンジャミン・ブリテンのオペラ「オーウェン・ウィングレイヴ」は、この作曲家のオペラの中では比較的上演機会に恵まれないものの一つ。そのオペラがフランクフルト歌劇場で上演されるのを知ったことが、今回の旅に出るきっかけになった。

 原作はヘンリー・ジェイムズの短編小説。イギリスの旧家を舞台とした幽霊譚で、周囲とは異質の部分をもつ青年が破滅する物語。その点では同じくヘンリー・ジェイムズの原作による「ねじの回転」と似ている。ちがう点は、異質な部分が、「ねじの回転」ではある性的傾向であるのにたいして、こちらでは反戦思想である点。この二つはブリテンの生涯では同じように切実な問題だった。

 このオペラはブリテンのオペラの中では最後から二番目。そのためか、音楽的にはブリテンの手馴れた語法がきかれる。特徴的なのは、主人公が反戦思想を表明する場面でガムラン音楽の模倣音型が鳴ること。それは主人公のいちばんナイーヴな部分を表現しているように感じられた。

 歌手では主人公を歌ったミヒャエル・ナギイMichael Nagyが圧倒的。強い声と(ドイツ語圏で活動している歌手のようだが)完璧と思われる英語の発音で、主人公の苦悩を十全に表現していた。外見も白面のエリート青年そのものだった。
 一方、主人公に軍人としての生き方を押し付ける二人の女性、恋人のケイト・ジュリアンと叔母のミス・ウィングレイヴを歌った歌手は、声は出ていたが、外見と演技が健康的すぎた。これらの役柄にはもっと病的な偏執性がほしかった。
 指揮はユーヴァル・ツォルンYuval Zorn。ブリテンの音楽を十分に味あわせてくれた。
 前日の「テンペスト」もそうだったが、このオペラも新制作の最終公演。歌手もオーケストラも作品をすっかりこなしていて、惰性に陥らず、共感にあふれた演奏だった。

 演出はウォルター・サットクリフWalter Sutcliffe。一言でいうなら、オーソドックスな演出。装置、衣装、照明ともあいまって古色蒼然とした雰囲気を醸し出していた。これは原作の路線にのったものだが、別な方法による現代的な舞台づくりも可能かもしれない。
 興味をひかれたのは、第2幕冒頭の吟遊詩人の場面で吟遊詩人を執事に置き換えていた点。たしかにここは吟遊詩人のままでは唐突で、なにらかの工夫が必要なところだ。

 この公演は、いつもの歌劇場ではなく、中央駅から地下鉄で2駅目のところにあるボッケンハイマー・デポBockenheimer Depotという場所でおこなわれた。そこはレンガ造りの古い倉庫。天井には木の梁がむき出しになっていて、平土間に仮設の舞台と階段状の客席を設けていた。独特の雰囲気があり、音も問題なかった。
(2009.2.7.フランクフルト歌劇場Bockenheimer Depot)

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2 コメント

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ブリテン (SZ)
2010-02-17 01:40:54
倉庫でオペラだなんて、さすがドイツですね~。
レパートリーも多彩そうです。

ブリテンは、録音の「ロシアの葬送」しか聴いたことがありません。
こういった珍しいオペラを観れるなら、わざわざ海外まで足を延ばしたくなりますね。
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SZ様 (Eno)
2010-02-17 19:39:41
倉庫でオペラ、かっこいいですね! そういえば、一度だけペーザロのロッシーニ・フェスティヴァルにいったことがありますが、あそこは体育館でやっていました!
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