Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カーチュン・ウォン/日本フィル

2021年03月06日 | 音楽
 インキネンの代役に立ったカーチュン・ウォンKahchun WONGは、何かの機会にその名前を耳にしていたので、期待が大きかったが、実際に聴いてみると、期待以上の才能だ。その登場に接した喜びが、一夜明けたいまも余韻として残っている。

 カーチュン・ウォンはシンガポール出身の若手指揮者。クルト・マズアの愛弟子だったらしい。2016年のグスタフ・マーラー国際指揮者コンクールに優勝し、2018/19年のシーズンからニュルンベルク交響楽団の首席指揮者をしている。ちなみにグスタフ・マーラー国際指揮者コンクールはバンベルク交響楽団が主催するコンクールで、2004年の第1回コンクールの優勝者はグスタヴォ・ドゥダメルだ。

 今回カーチュン・ウォンは基本的にはインキネンのプログラムを引き継いだが、1曲だけ変更した。インキネンはリヒャルト・シュトラウスの「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」を予定していたが、これをショスタコーヴィチ(ルドルフ・バルシャイ編曲)の「室内交響曲」に変更した。結果、プログラム全体の印象がガラッと変わった。その効果は驚くべきものだ。カーチュン・ウォンは4月にはカンブルランの代役で読響の定期を振るが、そこでもプログラムを一部変更している。その効果も絶大だ。

 前置きが長くなったが、昨夜の演奏会の話に入ると、1曲目は上記のショスタコーヴィチ(ルドルフ・バルシャイ編曲)の「室内交響曲」。原曲は弦楽四重奏曲第8番だ。ショスタコーヴィチ音型のDSCHが出てきたり、チェロ協奏曲第1番のテーマが引用されたり、ワーグナーの「リング」のライトモチーフが引用されたりと、交響曲第15番との関連がうかがえる曲。それをバルシャイは弦楽合奏用に編曲した。

 カーチュン・ウォンの指揮は、音楽への没入がすごく、その集中力と、しかし主観的にはならずに、揺るぎない構築力を示すもので、これは大した才能だと思わせた。一方、日本フィルから出てくる音は、ラザレフの薫陶を思わせる音で、ラザレフ効果が脈々と息づいていることを感じさせた。

 2曲目はリヒャルト・シュトラウスのオーボエ協奏曲。オーボエ独奏は首席奏者の杉原由希子。この奏者特有のはっきりした発音が際立った。オーケストラは前曲とは打って変わって、みずみずしい音色で表情豊か。オーボエ独奏に絡むクラリネットも洒脱だった。

 3曲目はベートーヴェンの交響曲第6番「田園」。淀みない流れで、そこに細かいドラマが生起する。けっして一本調子にはならない。初めて振るオーケストラでこれだけそのオーケストラと一体化した演奏をするカーチュン・ウォンは、並みの才能ではないだろう。
(2021.3.5.サントリーホール)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 山田和樹/読響 | トップ | コンスタブル展 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

音楽」カテゴリの最新記事