Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

B→C 東条慧ヴィオラ・リサイタル

2021年09月22日 | 音楽
 東京オペラシティのB→Cコンサートに東条慧(とうじょう・けい)というヴィオラ奏者が登場した。東条慧はパリとベルリンで学び、今年からデンマークのコペンハーゲンで王立歌劇場の第一首席ヴィオラ奏者として試用期間を開始したそうだ。わたしには未知の演奏家だが、プログラムに惹かれて、聴きに行った。

 プログラムの前半は、バッハの「無伴奏チェロ組曲第5番」(ヴィオラ版)とリゲティの「無伴奏ヴィオラ・ソナタ」を交互に弾くもの。バッハの第1曲「プレリュード」では演奏に硬さが感じられたが、徐々にほぐれて、第5曲の「ガヴォット」と第6曲の「ジグ」ではよくこなれた自由闊達な演奏になった。

 リゲティの曲も、バッハと同様に全6曲からなるが、こちらは第1曲から自信に満ちた演奏が繰り広げられた。楽器もよく鳴った。そのペースは最後まで続いた。

 おもしろかったのは、バッハの第4曲「サラバンド」だ。この曲は重音が使われず、単音で「分散和音の主題が朗々と歌われる」(東川愛氏のプログラム・ノーツより)が、普段聴いても奇妙に抽象的に感じられるこの曲が、リゲティと交互に演奏される中で聴くと、これはバッハかリゲティかと戸惑うような感覚になった。

 プログラム後半は、まず藤倉大の2人のヴィオラ奏者のための「Dolphins」。もう一人のヴィオラ奏者はイギリスのマンチェスターにあるBBCフィルハーモニックの副首席奏者・牧野葵美(まきの・きみ)。「膨らんではすぼむ起伏に富んだフレージングが襞のように織り成され、音楽全体にリリックな情緒が際立っています」という曲(同上)。2人のヴィオラ奏者がお互いのフレーズを引き取りながら、水面を跳躍する2頭のイルカのように、どこまでも飛んでいく。東条慧はいうまでもないが、牧野葵美も優秀なヴィオラ奏者のようだ。

 次はプロコフィエフのバレエ音楽「ロミオとジュリエット」から数曲をヴィオラとピアノ用に編曲したもの。編曲者はショスタコーヴィチと深い親交を結んだベートーヴェン弦楽四重奏団のヴィオラ奏者・ボリソフスキー。第1曲「前奏曲」が始まると、バッハ、リゲティ、藤倉大と続いた緊張感のある音楽から一気に解放され、甘いエンタメ性のある音楽に気持ちが緩んだ。ピアノは草冬香(くさ・ふゆか)。

 最後はジョージ・ベンジャミンの「ヴィオラ・ヴィオラ」。この曲も藤倉大の「Dolphins」と同様に2人のヴィオラ奏者のための曲だ。藤倉大の曲も音が美しいが、藤倉大のその曲が明るい美しさだったとすれば、ベンジャミンのこの曲は透明な美しさだ。曲想は藤倉大よりシリアスかもしれない。わたしは気持ちが緩んでいたので、立て直しに苦労した。
(2021.9.21.東京オペラシティ・コンサートホール)

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