Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

小川典子のラフマニノフ「ピアノ協奏曲全集」

2020年06月12日 | 音楽
 ラフマニノフのオペラ「アレコ」の演奏会形式上演が予定されていた日本フィルの5月の定期では、前プロにラフマニノフのピアノ協奏曲第1番が予定されていた。第2番と第3番は定番中の定番だが、第1番は聴いた記憶がないので、ナクソス・ミュージックライブラリー(以下「NML」)で聴いてみた。

 「アレコ」のCDを聴いた直後だったので、ピアノ協奏曲第1番の流麗さに驚いた。成熟したラフマニノフの書法だ。いかにも習作らしい「アレコ」のぎこちなさ(それはそれでおもしろい)が微塵もないのだ。ピアノ協奏曲第1番も(「アレコ」と同様に)モスクワ音楽院時代の作品なので、不思議に思って調べてみると、後年(第2番と第3番のピアノ協奏曲の作曲後に)改訂されていることがわかった。それで納得したのだが、そうなると、改訂前の原典版を聴きたくなる。CDがあるのかどうか。モスクワ音楽院時代のもう一作、交響曲(通称「ユース・シンフォニー」)がやはり習作の面影をとどめているので、ピアノ協奏曲第1番の原典版も現行の版とはそうとう違っていたと思う。

 NMLで聴いたピアノ協奏曲第1番は、日本フィルに出演予定だった小川典子の演奏だ。小川典子といえばドビュッシーと武満徹が思い浮かぶので、ラフマニノフは意外だったが、ロシア情緒たっぷりの演奏だ。録音が鮮明さに欠けるのは、マイクの位置が遠いからか。

 オーケストラはオウェイン・アーウェル・ヒューズOwain Arwel Hughes指揮のマルメ交響楽団。上記の録音の問題を割り引くにしても、オーケストラは非力かもしれない。指揮者のヒューズはロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団を振ってラフマニノフの交響曲全集を録音している。それも聴いてみた。バランスのとれた秀演で、録音も問題ない。

 ピアノ協奏曲第1番にはラフマニノフ自身の録音がある(オーケストラはオーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団)。それも聴いてみたが、テンポがまるで違う。速いのだ。NMLの表示によると、小川典子が28分35秒、ラフマニノフが24分47秒。他の演奏家では、アシュケナージが小川典子と同じくらい、ゾルタン・コチシュがラフマニノフと同じくらいで、それ以外の演奏家はその中間におさまる。

 小川典子もラフマニノフも、それぞれラフマニノフのピアノ協奏曲全集を録音しているので、ついでに全部聴いてみた。どの曲も小川典子が最長時間のグループ、ラフマニノフが最短時間のグループに属する。極端な例は第3番だ。小川典子は43分50秒、ラフマニノフは33分47秒。カットの有無は確認できないが、感覚的には、テンポがまったく違う。それを聴きながら、ラフマニノフのピアノ協奏曲は、現代ではラフマニノフが考えていたよりもそうとう遅く演奏されているのではないかと思った。本来は、情緒纏綿とした曲ではなく、明暗のコントラストが強く、エキサイティングな曲だったかもしれない。

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