Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラザレフ/日本フィル

2012年03月21日 | 音楽
 ラザレフ/日本フィルのコンビが好調でなによりだ。17日(土)の定期も聴衆はよく入っていた。低迷していた頃のガラガラの会場とは様変わりだ。聴衆は正直だと思う。ここまで盛り返したのは、一にも二にもラザレフのお陰だ。日本フィルの経営陣はラザレフ様さまだろう。

 この日のプログラムはエルガーのチェロ協奏曲(独奏:横坂源)とラフマニノフの交響曲第2番。《ラザレフが刻むロシアの魂》シリーズの第2弾だ。

 エルガーのチェロ協奏曲は、オーケストラも独奏チェロも、穏やかな、角のとれた、おっとりした演奏。オーケストラは肌理の細かいアンサンブルを聴かせ、横坂源のチェロ独奏も、あのジャクリーヌ・デュプレの、思いつめたような、渾身の演奏とはかけ離れた、上品で育ちのよい演奏を聴かせた。

 ラザレフはこのシリーズの前の《プロコフィエフ交響曲全曲演奏》シリーズでも、前プロにモーツァルトを置いて、やはりこのように肌理の細かい、穏やかな演奏を披露して、後半のプロコフィエフとの対比を図っていた。

 ラフマニノフの交響曲第2番は、生身の人間の情熱がほとばしる、身振りの大きい、怒涛渦巻く演奏だった。とくに第1楽章の展開部のクライマックスでは、狂おしいまでの情熱に圧倒された。人によっては第3楽章の寄せては返す情熱の波にも、同じものを感じたかもしれない。

 ラザレフが、なぜこのような演奏をするかは、わかる気がする。外国人にとっては(とくにロシア人はそうかもしれないが)、日本のオーケストラは情熱表現の点で物足りないのだろう。そこで西洋音楽が本来備える情熱表現を植え込もうとしているのだ。

 反面、プロコフィエフのときのアンサンブルの緻密さの追究は、後退している――もしくは、優先順位が後になっている。だから、できるなら、ラザレフの意図を汲みつつ、オーケストラ側が自主的に緻密なアンサンブルで受け止めてほしい。

 アンコールにラフマニノフの「ヴォカリーズ」が演奏された。演奏が終わると、会場は緊張しきった静寂に包まれた。この日の聴衆は質が高い。そして起こる爆発的な拍手。カーテンコールでのラザレフのパフォーマンス(=聴衆とのコミュニケーション)は、なかなか真似のできないものだ。クラリネット奏者を指揮台に立たせて拍手を受けさせたり、フルート奏者とオーボエ奏者のあいだに立って両手を上げたり――。
(2012.3.17.サントリーホール)

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