Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

鈴木優人/読響

2023年06月14日 | 音楽
 鈴木優人指揮読響の定期演奏会。1曲目はアタイールのチェロ協奏曲「アル・イシャー」。チェロ独奏はジャン=ギアン・ケラス。

 アタイールってだれ?と思う。バンジャマン・アタイールBenjamin Attahir。1989年生まれのフランスの作曲家だ(澤谷夏樹氏のプログラムノーツより)。レバノンの首都ベイルートにルーツを持つそうだが、どんなルーツかは、記載がない。「アル・イシャー」Al Ichaはケラスの独奏で2021年にパリで初演された。それ以来、ヨーロッパ各地で演奏されている。

 演奏時間約30分の単一楽章の曲だ。重心の高い音で鮮やかな色彩感がある。疾走する部分と静まる部分とが何度も出てくる。異なる風景が次々に現れるような感覚だ。部分的にはいかにも中東的な音調も聴かれる。全体の構成の把握は、一聴しただけでは難しい。むしろ移り変わる音の風景の生きのよさが楽しめる曲だ。

 アル・イシャーとはイスラム教の一日5回の礼拝の最後の礼拝(=夜の礼拝)を意味するそうだ。夜の音楽というとバルトークを思い出すが、バルトーク流の、静謐な中にもさまざまな物の気配が聴こえる音楽とはちがって、動きがあり、活気があり、すべての音に明瞭な輪郭がある音楽だ。中東の夜はそうなのか。

 ケラスのチェロ独奏はもとより、鈴木優人指揮する読響も、難易度のきわめて高そうなこの曲を鮮やかに演奏した。音の照度が高くて、光り輝くネオンサインの街を車で疾走するような爽快感があった。

 ケラスのアンコールがあった。これも中東的な音調があった。会場の掲示によると、アフメト・アドナン・サイグンAhmet Adnan Saygunの「ソロ・チェロのためのパルティータ」からアレグレットとのこと。サイグンって? 帰宅後調べてみると、1907年生まれのトルコの作曲家だ(1991年没)。パリのスコラ・カントルムでダンディに学んだ。興味をひかれたのは、1936年にバルトークがトルコの民謡採集をした際に、サイグンが助手を務め、バルトークから多くを学び、親交を結んだ点だ。サイグンには交響曲が5曲ある。CPOレーベルから全集が出ているので、今度聴いてみよう。

 プログラム後半はベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。鈴木優人らしくインテンポで硬く締まった演奏だ。“巨匠”風の指揮者に接する機会が多いオーケストラには、鈴木優人のようなスタイルに触れることも有意義だろう。ただ、いつもそうだが、鈴木優人は現代曲の色彩豊かな演奏に比べて、古典派の演奏では音色がモノクロになる‥。
(2023.6.13.サントリーホール)

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