goo blog サービス終了のお知らせ 

平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

功名が辻 秀吉謀反

2006年05月08日 | 大河ドラマ・時代劇
 第18回「秀吉謀反」には大逆転のカタルシスがある。

 北陸攻めの軍令違反で蟄居することになった秀吉。
 信長の怒り・誤解が解けなければ、秀吉(柄本明)は死罪。
 長浜は焼け野原になるという大ピンチ。
 まさに最低・最悪の状況だ。

 しかし、ここから大逆転が始まる。
 まず、秀吉は猿楽師を呼んで長浜城でドンチャン騒ぎ。
 実はこれは竹中半兵衛(筒井道隆)の策略。
 安土から呼び寄せた猿楽師が秀吉の真意を信長(舘ひろし)に伝えるだろうと読んだもの。
 秀吉はこれ見よがしに言う。
「わしは片時も我が身のことを思うたことがない。この世に生まれたのも息をするのもすべて上様の御ため。上様はこの蟄居の間、この秀吉に休めと言っておられるのじゃ」
 これで信長の怒り、謀反の誤解が解ける。
 危機脱出だ。
 点数で言えば、マイナスからゼロへ。

 しかし、この事件の顛末はさらに続く。
 松永弾正(品川徹)の謀反。
 半兵衛が読んだとおり、北陸攻めで手薄になった近江の状況を見て絶好の機会と思ったのだ。
 これに対応できる軍勢は、秀吉軍のみ。
「お蘭、猿を呼べい!」
 その瞬間、秀吉が来る。
 まさに絶妙のタイミング!
 呼ばれてもいないのに先を読んで馳せ参じた秀吉。
「この男デキるな。使える男。北国から引き上げて来たのは、そのためであったか」と信長が思ったことは間違いない。 
 これで秀吉プラス得点。
 信長の危機を救ったのだから、プラス3点ぐらいか。

 そして秀吉の大逆転はさらに続く。
 松永弾正を見事、焼き討ちで討ち取ったのだ。
 これでプラス2点。

 そして信長の重臣たちが集まっての評定。
 信長は柴田勝家(勝野洋)を「謙信になめられおって、どの面下げてここにおる!」と面罵し、秀吉に言う。
「猿近う! 中国はそちが切り回せ」
 得意満面の秀吉は言う。
「中国10カ国は5年で下してみせましょう!」
 これに信長がリアクション。光秀(坂東三津五郎)を叱る。
「光秀、そちは丹波1国を切り取るのに10年かかると申したな。陰気なことよ!」
 そして秀吉に再び言う。
「猿、中国10カ国、われの一手で料理せい! 励めい!」
 これで一躍、秀吉は勝家・光秀を抑えて、織田家のナンバー1になる。

 まさにマイナスからの大逆転。
 秀吉の大出世物語を1話で痛快に語った。
 実に見事なシナリオである。

 しかもシナリオの大石静さんはこの大逆転ドラマの裏に苦しんだ人間がいたことも描いた。

 まずは一豊(上川隆也)、そして秀吉。
 秀吉は一豊に弾正の調略を指示するが、生来の実直さと単純さから弾正の降伏条件をそのまま持ち帰り失敗する。
 弾正の降伏条件は「家臣や女子供を逃し、その後で平蜘蛛の釜と自分の首を差し出すというもの」
 しかし、秀吉は言う。
「順番が違う! 平蜘蛛の釜か弾正の首がなければ上様を説得できぬではないか」
 そこへ信長から弾正が立てこもる信貴山の攻略はどうなったかと催促が来る。
 北国の件で軍令に背いているため、ここでは背けない秀吉。
 女子供を殺すことは本意ではないが、信貴山を焼き討ちする。
 実は秀吉の大逆転劇の背後には、こんな一豊の挫折と秀吉の苦渋があったのだ。
 そして弾正とその一族の死も。

★研究ポイント
 ドラマの作り方:大逆転のドラマ。
 マイナスから大逆転するドラマは痛快で面白い。
 しかし、それだけでなく、その裏にある苦渋と悲劇を描いた所も見事である。

★キャラクター研究:千代
 千代(仲間由紀恵)は本当に一豊のことが大好きである。
 今回も甘いせりふをいくつか。
 千代が男に生まれていたらすごい軍師になっていただろうという一豊に千代は男などになりたくないと言う。
「おなごに生まれなければだんな様の妻にはなれませぬゆえ」
 失敗して調略の才覚がないと悩む一豊に。
「だんな様の生き様を貫きなさいませ。正直で一途なだんな様が千代は大好きでございます」
 すると一豊。
「酔うたな?」
「まだ、酔うてはございません」
 ※恥ずかしい言葉を酔ってなくてもしっかりと言える千代。一豊は果報者。

★名セリフ
 濃(和久井映見)は光秀に言う。
「ひとりでいると見えてくるのです。嫌でも見ようとしなかったことが見えてくるのです」
 ※見えてきたものとは光秀への恋心。

 光秀は秀吉に言う。
「生きていること自体がつらいこと」
 ※そんなことはそれがしには言えないという秀吉。陽気な秀吉と陰気な光秀の対比。
 信長は陽気を好んだ。

 吉兵衛(武田鉄矢)は子供を殺して悩む一豊に言う。
「迷うてはなりません!われらは大儀のために槍をふるっております。時には情けを捨てることも必要。世は戦国!われらは武者にございます。闘うは我らの定め。逃げることはできません」
 ※千代と共に一豊のアイデンティティを支える吉兵衛。
 前回(第17回)の千代のせりふ「迷いがあるから人なのではありませんか」とも呼応。
 一豊は「迷う人間」なのだ。

 弾正、説得に来た一豊に
「これが最後の賭け。裏切りと策謀、すべてを使い切っての人生。おまえの様な青二才の言うことなどきかぬわ!」
 ※弾正、一世一代の大見得。

 裏切っていく播磨の豪族たち。秀吉、黒田官兵衛に
「上様についていくのは疲れる」
 ※アンチ信長をにおわせるせりふ。

 六平太(香川照之)
「織田家を見限りませぬか?」

★名シーン
 弾正謀反。秀吉、信長の所に来て言う。
「猿、またしても出過ぎましてございます! これより天王寺砦に出陣いたしますことをお許し下さいませ。松永弾正は親方様のような極悪人でございますゆえ」
 信長は見得を切って言う。
「閉門を解く! 信忠のもと弾正を討て」
※死罪を言い渡されるかもしれない信長を前にして、「極悪人」と言える胆力と信長の人柄を熟知した秀吉の「人たらし」が集約されたせりふ。
※信長の大見得も見事。

★追記
 今回のモチーフを分解するとこうなる。
  1.秀吉の蟄居~大出世
  2.松永弾正の謀反
  3.一豊の調略失敗
  4.千代の頭の良さと一豊の実直
  5.信長の変貌と家臣たちの怖れ・動揺
 これらすべてのモチーフが「弾正謀反」というひとつの事件の中で密接に関連し合っているから面白い。

 第16回「長篠の悲劇」ではこうだった。
  1.千代が身ごもる。
  2.小りんの退場。
  3.市之丞の死。
  4.源助の死。
  5.強敵・武田の滅亡。
 1、2、3はかろうじて関連しているが、4、5は別である。
 だから散漫な感じがした。

★追記
 弾正が絶好の機会ととらえたのは、上杉上洛で近江が手薄になり、本願寺が雑賀が毛利が動くと思ったからである。
 裏で糸を引くのは足利義昭。
 しかし、本願寺らは動かなかった。
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする